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踊りを介して巡り会うもの 坂東玉三郎京丹後特別舞踊公演 Through dancing tamasaburo bando

丹後を愛する人がいらっしゃいます。

 

この土地を「日本の良さをもう一度認識できる場所」と表現される、歌舞伎役者 坂東玉三郎さん。平成30年5月19日・20日の二日間、京都府丹後文化会館にて坂東玉三郎京丹後特別舞踊公演が開かれました。

 

こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。初めて拝見した歌舞伎の舞台。目に映るのは暗闇に浮かび上がる真っ白な丹後ちりめん。静かに舞う身体を、たおやかな曲線が包み込む。踊りの流れに引き込まれ、見えるはずのないシボひとつひとつの艶めきが目に映り込む。時間はゆっくりと遅れだして、冬の静寂が空間に満ちる。演目「雪」で玉三郎さんが纏っておられたちりめんは、丹後との出会いから生まれた特別な一着でした。

本公演の物語は、玉三郎さんと料亭和久傳の大女将 桑村綾さんの長年の交流から幕を開けます。綾さんから丹後へのお誘いを受けて十数年「ピンとこなかった」と口上で会場の笑いを誘う玉三郎さん。その心は「どのようにしたら皆さまと舞踊公演でお目にかかれるか思い描けなかった」からと、役者としてこの地を訪れる意味を深く考えてのことでした。ご縁が重なり、三年前に初めての公演が実現します。


口上で丹後について語る玉三郎さん

そこで目にしたのは、美しい丹後ちりめん。歌舞伎とは切ってもきれぬ間柄にありながらも、近年は入手が難しくなっていました。たとえば手拭いひとつとっても、生地の幅と重さ、シボの立ち方と全てを備えたちりめんでなければ美しい流れは完成しません。玉三郎さんは探し求めていたちりめんに丹後で巡り会い、「私が披露する間はこれで大丈夫。次の世代もその美しさを見出し、私の届かないところ、見えないところまでも繋げてくれるかもしれない」と芸能の未来に明かりを灯されます。そして、丹後の地には希望という明かりを灯されました。

 

初めて丹後を訪れた年に、蔵に積まれた反物を目の当たりにして産地の厳しい現状を知った玉三郎さん。「この歳になるまで丹後のことを存じ上げなかったけれど、人間はどこかでこのままではいけないと反省できる」存在であると心に決め、職人に声をかけます。「ちりめんの魅力と現代に紡がれた技を世に届けましょう」。丹後ちりめんを一反ずつお好みの色使いに染める「玉三郎好み」プロジェクトの誕生です。30から始まり、これまでに300を超える色が生まれました。打ち合わせから染め上がりの確認まで職人たちに伴走し、熊本・山鹿市の八千代座では展示販売も実施。丹後を愛しむ言葉を、メディアや公演で耳にした方もおられるでしょう。


「玉三郎好み」プロジェクトの反物

「心からの支援に感謝をお伝えしたい」。

本公演では、織元と職人一同から楽屋暖簾が贈られました。舞台に臨む玉三郎さんの肌に触れるのは、幼い頃から愛でてこられたちりめん。ひんやりとした感触が、役に向かう意識を研ぎ澄ましていたかもしれません。溶けるような風合いは、演目を終えた身体を優しく迎え入れていたかもしれません。暖簾をくぐる瞬間のことは想像するばかりですが、職人たちと言葉にならないものを交わす儀式であったかもしれません。


丹後ちりめんの楽屋暖簾

終わりに。

THE TANGOを読んでおられる皆さまに、玉三郎さんからの言葉をお伝えいたします。丹後に皆さまを誘う、特別なチケットになることを願って。

 

「丹後には、美しさを披露することが難しくなる時代に本物が残っています。私の踊りを介して、素晴らしい丹後ちりめんに巡り合ってください」。

 

協力/松竹株式会社、坂東玉三郎京丹後公演実行委員会

原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
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