白い実が漆黒に変わるとき
風土と発酵が交わり
一粒の宇宙が完成する。
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。
ドライフルーツやチョコを食べたい気分の時、ひとかけらを口に。滑らかな舌触りは蜂蜜のようで、甘酸っぱい果実のインパクトが広がる。深い旨味は円熟した味噌にも劣らない。その食品は「フルーツガーリック」。
株式会社フルーツガーリック取締役社長 早川玄氣さん
5月。晴天のにんにく畑で土から掘り出したばかりのにんにく。太陽を照り返すほどに白く、その場で調理したアヒージョは甘みと瑞々しさに溢れていました。京丹後市網野町で生にんにくの栽培から黒にんにくの製造・加工品までを展開する株式会社フルーツガーリック取締役社長 早川玄氣さんは最大5ヘクタールもの畑を一人で管理する農園長でもあります。
白く輝く採れたての生にんにく
この日の作業は「芽切り」。玄氣さんの畑は約3割を無農薬無化学肥料で、残りは減農薬の特別栽培で育成。栽培期間を通して無農薬で栽培されているため、収穫前に摘み取られるにんにくの芽まで美味しくいただくことが出来ます。炒めても湯がいてもホクホク、エグミの全くない上品な香りが特徴です。
芽切りから約一ヶ月かけて球根に栄養を閉じ込め、6月の収穫へ。夏の土作り、秋の植え付けからほぼ一年をかけてニンニクは栽培されます。トラクターや草刈機で茎を短く切ってから掘り起こし、根をハサミで切る。最後は人の手をかけて約12トンものにんにくを収穫していきます。この日収穫のお手伝いに来ていたフルーツガーリックのファンだという小さな子どもたちが、土に触れて駆け回っていました。
手をかけ育てた土の恵みをふんだんに蓄えたにんにく。京丹後市の山中に位置する畑は基本的に山土からなり恵まれた環境とは言えませんが、本来にんにくは貧しい土地でも育ち、獣害にもあわない作物です。ところが「うちのにんにくは収穫直後の糖度は30度越え、発酵が進むと45度くらいまでいくこともあります」という玄氣さんの説明には驚くしかありません。にんにくは栄養価も高く効能も多い、言わずと知れた元祖スーパーフード。さらに堆肥や自社製造した微生物資材を投入し土壌改良に力を注ぎ、5年連作を続けているにもかかわらず過去最高の品質と収穫量を達成。一般的に、同じ作物の栽培を繰り返すと植物の根が分泌する成分と微生物のバランスが偏り、収穫量の減少や病害虫の発生という「連作障害」が発生しやすくなります。それを防ぎ、さらに作物自体の生命力を高めているのが自社製造「酵素液」の散布。「複合発酵」という技術は通常は成立しないと思われていた環境を作り上げます。例えば酸素を好む菌と酸素で死滅してしまう菌の共存という風に。「この酵素液の役割はその土地にいる菌がそれぞれ手を繋いで“場”を作っていく手伝いをするファシリテーター的存在なのです」。
作物は土の恵み
収穫後にはボイラーによる乾燥を経て、発酵と熟成の工程へ。「にんにくサウナ」と呼ばれる部屋は室温60℃、湿度20%、そして熟成するにんにくの魅惑的な香りで充満していました。シールで密封したプラスチックケースには約10キロのにんにくが並べられ、約一ヶ月かけて発酵と熟成が進みます。高温多湿の条件下でにんにくが黒にんにくへ変化。「その発酵のメカニズムは完全にはわかっていませんが、フルーツガーリックの場合は複合発酵の要素が働くように仕掛けています」。
何もかも説明がついてしまう現代において、解き明かすことのできない発酵という世界の奥深さはかえって魅惑的に響きませんか。そして、出来上がったフルーツガーリックはシンプルに美味しい。
発酵の様子を確認する玄氣さん
「この仕事を通じて人々が元氣になるお手伝いをしながら、尚且つ自然を高められると思って」家業に入った玄氣さん。大学で生物学を専攻し、農薬のもたらす影響やヒトの産業が自然にかける負荷について思いを巡らせてきました。玄氣さんの目指す展開は、フルーツガーリックに止まりません。酵素水による栽培を他の作物にも展開し、無農薬無化学肥料でも高品質で安心安全な食べ物を増やすこと。きちんと稼げる農家を増やし、六次産業にも繋げて、地域も、もちろん食べた人も元氣になる。さらには、「この酵素水自体をあらゆる環境改善や健康のために役立てていきたい」と「Project1375(プロジェクトイサナゴ)」を始動。日本最古の羽衣伝説の地、丹後半島の付け根に位置する磯砂山(イサナゴ)から始まる取り組みです。羽衣天女が水浴びをしたと言われる水源、伊勢神宮へ移る前の豊受大神が祀られていた場所…
未だ解き明かせないものは、ここ丹後にも満ちています。
そして、一粒の宇宙「フルーツガーリック」にも。
自社製造で仕上げる酵素水
原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD