ひとくちが麗しく
ひとくちが驚きに満ちて
ひとくちが喜びになって身体を駆け巡る
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。
大切な人が丹後を訪れると、縄屋の暖簾をくぐります。
丹後に移住してよかったと心から思う時間を過ごしに。
5月 野山
天候は薄曇り。丹後の季節は行きつ戻りつ、肌寒い。
それでも、地中から樹々から緑が吹き出して、山はどんどん大きくなる。
縄屋料理人 吉岡幸宣さん
空を舞う鷹が獲物に向かって急降下するが如く
吉岡幸宣さんが斜面を駆け下りる。
浅葱(あさつき)の群生。
白い花びらは丸く膨らみ、紫の筋はまだ弾けないようにと口を結ぶ。
手早く摘み取って、水を張ったバケツに入れていく。
三つ葉、甘草、茗荷竹、コシアブラにシャク。
山菜が芽吹く日々は、春から初夏にかけての端境期と重なる。
やがて山に虫が増える頃には、夏野菜が実りだす。
採取から栽培へ自然に暦が移っていく。
それと同じこととして、野山に自生する山菜は野菜の原種でもあり
境界線を引くことに意味はないのかもしれない。
浅葱の花が咲いたスープ
8月 厨房
「今年のズッキーニは小さいです」。
例年なら最初に実をつけるズッキーニは腕ほどの大きさに育つ。
そのズッキーニを使い切るために考案された「野酵酢(やこうず)」の仕込み。
自家菜園の野菜
盛夏には、獰猛なまでに実る夏野菜。
キュウリ、ナス、ズッキーニを細かく刻み、シソの葉と塩、麹を加えてミキサーにかける。
弥栄町の有機農家 隅野和幸さんが無農薬・無化学肥料で育てたお米「旭」から、同じく弥栄町にある竹野酒造が育てた麹。
ボウルに入れて、ラップをして常温に置く。
「一週間もすれば表面はカビに覆われ、それを混ぜ込むとそれ以上カビは発生しません。最初は失敗したと思ったけど、嫌な匂いじゃなかった」。
わずか3日後。
「だいぶモコモコしてきました」。
画像とともにメッセージが舞い込む。
内側から膨らみ、山や谷のような景観が現れたボウル。
ラップをわずかにめくり、思い切り息を吸い込む。
甘く、酸味があって、でもまだ野菜らしい鮮度があって、気持ちのいい香り。
乳酸菌が白い膜となってその内側に一つの世界を成立させていた。
混ぜ込まれて、ここから発酵が進む。
最後にもう一度ミキサーかければ、野酵酢の完成。
「料理は保存食作りでもありましたが、最近は“何が面白いか”になってきている。今ある野菜をどうやって使い切っていくか、畑をやっていないと考えない。廃棄しないよう、どうにかしようという認識があまりない。それがないから、いい商品ができない」。
野酵酢が添えられた焼き魚
原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD