「たんちょす」
近い将来、このキーワードをめがけて
丹後にグルマン(美食家)たちが集うようになるでしょう
丹後のおいしいものと言えば
冬の蟹に新鮮な魚介、郷土料理のばら寿司…
実は、それだけではないのです
こんにちは、PARANOMADテキスタイルデザイナーの原田美帆です。丹後の生産者と調理人、加工業者が集う、食にまつわる学会に参加してきました。その名も「京丹後ガストロノミカ」。
最初の登壇者は「てんとうむし畑のオーガニックおやさい 梅本農場」を営む梅本修さん、丹後で有機農業の第一人者として知られる存在です。年間で150種もの野菜を育てている修さん。「冬に旬を迎える人参。その始まりは種まきだと思っていますか?」。どきりとする問いかけから、講演が始まりました。野菜が育つにはたっぷりの太陽と、水と「フカフカの土」が必要であること。土づくりは2月の落葉集めから始まること。7月から8月に種をまき、冬に収穫するまで約120日。土づくりを加えると約1年の歳月が一本一本の人参を育て上げています。さらに「落葉の森が育つには50年、森の土が育つには100年かかります。ざっと計算すると、20センチの深さの土は1000年の歳月が作り上げているのです」。農業へのスケール感が、数分の話のうちにみるみる変わってゆきました。
天然のミネラルによる塩の味が感じられる 修さんの野菜
次は若き漁師の村上純矢さん。目の前で魚の活け〆実演が始まります。跳ねる魚を手に、ドライバーのような道具で頭を刺し脳を破壊します。「このままだと脳死状態で、10分程度で動き出すので血がまわり臭みや腐敗の原因になります」。さらに頭からワイヤーを入れ、神経を破壊。それからエラの根元の動脈を切ると、床に鮮血が滴りました。これまで見たことも想像したこともない場面の連続です。
実演をする村上純矢さん
「活け〆は、いい魚を長持ちさせます。熟成期間の間に、皮の間にある脂が身の方に染みてくる。そのリードタイムを作っています」。料理人のオーダーに応じて血抜きの量を調節することもあると教えてくれました。さらに続く「冷やし込み」では、氷水の温度を2℃から5℃に調整してさっと魚を冷やします。この方法で3、4日後の身の質に違いが出る。漁師が行う「魚の仕立て」が、料理人の技とともに一皿に込められていることを始めて知りました。
神経〆をした身としていない身の食べ比べ
ハモの骨抜きという新技術を披露してくれたのは「旬菜鮮肴ふかたべ」の隅野直樹さん。鱧には背骨の他に硬い無数の骨があることから、皮を残したまま骨切りをする調理法が一般的です。このため、普通の魚のように生の刺身にはできないとされ、さらに皮が厚くなりすぎる大鱧は倦厭されてきたと言います。直樹さんは6年もの歳月をかけて骨抜きの技術を確立し、分厚い平造り、鱧しゃぶ、昆布締め、寿司など新しい鱧料理の可能性を広げています。惜しげも無く技術を公開し食文化を盛り上げようとする直樹さんに、会場から大きな拍手が贈られました。
旬菜鮮肴ふかたべ 隅野直樹さん
写真家による料理撮影のポイント講座と料理研究家による講演と、盛りだくさんの内容で第1部は終了です。第2部は、京丹後の生産者と料理人の情報交流会として、生産物を持ち寄った展示商談会が行われました。地産地消を進めるつながりが、ここから生まれていきます。
第3部が近づくと、来場者も一気に膨れ上がりました。
みんなのお目当ては「たんちょす」バル。スペインの一口料理「ピンチョス」をもとに考案した、丹後の食材が手軽に食べられる料理です。13軒の飲食店が、丹後をぎゅっと濃縮した料理を創作しました。そのごく一部をご紹介します。
左から時計回りに
・鶏チャーシューと味玉(SORA農園のルッコラを使ったジェノベーゼソース)
/麺倶楽亭
・発酵いちぢくと豚リエットのクロスティーニ(京丹後産いちぢく、SORA農園の有機ビーツ&ミルク工房そらのリコッタチーズ)
・有機かぼちゃと極小黒大豆のピタパン(マンゴーファームの有機かぼちゃ、SORA農園の有機極小黒大豆)
・鰆の骨と中落ちのクッキー(HandS farmの米粉)
/カフェ888(ミツバチ)
・秋鰆と無花果の手巻き(飯尾醸造熟成赤酢使用の赤シャリと紅芋酢スプレー、弥栄産無花果・ルッコラ)
/和のオーベルジュ・まつつる
・地元食材で作る!米粉のお好み焼き(HandS farmの米粉、三野養鶏のタマゴとミンチ、琴引の塩、自家製紅生姜と地元のネギ、キャベツ)
/鉄板焼きうちんく
・オーガニックビーツとポテトのスープ 2色仕立て(SORA農園のビーツ、ポテト(ピルカ)、自然耕房あおきの玉ねぎ&にんにく、ヒラヤミルクの牛乳、フルーツガーリックの熟成塩)
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このイベントのために特別に作られたプレートには丹後がもつ食のポテンシャルがあふれていました。登壇者たち、出店者たち、生産者たちの情熱が一口に流れ込みます。「これまでの歴史の上に新しい食文化を築いていく」。大きな決意は参加者のお腹の中に、確かに届いていました。
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD