土と対話する農家。
海を読む漁師。
愛情をかけ家畜を育てる畜産家。
発酵という錬金術を操る杜氏。
食卓と食材の間が離れてしまった現代に、食べものが育まれた土地や作り手の話をして、新しい「食べる」体験を提供したい。口下手ですけれど、とはにかみながら話す北嶋靖憲さんは料亭和久傳が2016年に開いた「小さな台所 丹」で代表を務める若き料理長。
左から農家本田進さん、丹料理長北嶋靖憲さん、竹野酒造有限会社杜氏行待佳樹さん
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。丹後に暮らして、毎日の「いただきます」が変わりました。見知った生産者の顔を思い浮かべながら手を合わせ、お箸を運びます。
靖憲さんと丹後の生産者を訪ねた1日。最初にお会いしたのは竹野酒造有限会社の杜氏行待佳樹さん。「熱心に丹後に通っていたから」と地域の生産者ネットワークを紹介し、酒を酌み交わす仲に。靖憲さんは京都和久傳の修行時代から丹後を訪れていますが、丹の料理長となりその頻度は格段に増えました。二人の会話は旬のトリ貝から始まり、新しく繋がった生産者のことや果樹園、はたまた工芸論までスピードをあげながらパスを出し合っていきます。談笑しながらも鋭いセンサーが働いて、触れた途端にビリビリしそうな会話が止まりません。
和久傳の森MORIでランチをいただきながら
竹野酒造は毎年の蔵開を「蔵舞(くらぶ)BAR」と名付け、新酒と新進気鋭のシェフ、音楽アーティストが集う一夜を開いています。靖憲さんは2年前にトリ貝の料理で参加。「食への道を突き詰めていて、丹後を広く捉え地域貢献のことも常に考えている人」と佳樹さんを慕う言葉に、竹野酒造のお酒をお客さまに届ける料理人としての緊張感が伝わってきます。自らの酒造りに、料理人に、あらゆる職人に厳しい眼差しを向ける佳樹さんが一目置く存在が農家本田進さん。
和久傳「実の里」の棚田
進さんは代々続く家の田んぼを守っていましたが、子どものアトピー発症をきっかけに農薬等への疑問が湧き、より安全なものにこそ価値があり、日本の農業を守る柱の一つになると無農薬栽培のノウハウを探り続けています。有機栽培に目が向けられていなかった時代から「安心安全で美味しいが最高じゃないですか」と「ちょっと手間のかかる」農法を研究。その「ちょっと」というふわりとした言葉の向こう側にある膨大な手間と厳しい収穫量について後から佳樹さんが教えてくれました。「やれば出来るというラインを超えて、その先でやることが本質。作りたい。飲みたい。美味しいものを」。自らの道を定めた人の言葉は、どこまでも真っ直ぐでした。
現在、進さんは和久傳の田んぼ「実の里(みのり)」を担う協力農家の一人です。「9年前に女将の桑村綾さんから連絡があってね」。
不思議な縁が実らせた和久傳のお米の物語。続きは後編にてお届けいたします。有機農家を訪ねて、畑の中から新しい料理が生まれる瞬間もお楽しみに。
原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD