焚き火を囲んだ晩餐会
暗闇から浮かび上がる料理は
言葉から解き放たれた音楽のよう
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。
普段はそれぞれの店を運営する料理人がお互いの厨房を行き来して、特別なコースを作り上げる。こうした一夜限りのディナーやイベントが盛り上がりを見せる丹後。地域のポテンシャルを表現する場として国内外から注目を集めています。
全国各地で地方活性を牽引する人々が集うキリン株式会社主催の「地域創生トレーニングセンタープロジェクト」。
(「丹後の「世界品質。」キリン地域創生トレーニングセンタープロジェクト前編」「後編」も合わせてご一読ください。)
丹後フィールドワークの一部として特別に誂えた夕食会は「魚菜料理 縄屋」吉岡幸宣さんと「Bar Belini」田茂井義信さんを指揮者に迎えた一夜限りのオーケストラ。いくつもの食材が音楽のように一つとなって、夜空に降り注ぎました。
・鮑の殻に
赤万願寺で和えた紅ずわいがに
ピオーネ 糸うり 胡瓜の塩麹和え
・丹後梨と亀の尾蔵舞のカクテル
お料理とカクテルのスペシャルペアリングが仕掛けられたコース。日本酒「亀の尾蔵舞」のワイングラスから立ち上がる発酵のフェロモンと梨の甘い香りに、スターターから魅惑されていく観客たち。
・農家パン弥栄釜 セーグル・エリにのせて
バンジョウカジキのへしこ
クレソン
海老の塩麹漬け
THE TANGOでも以前その世界感に触れた農家パン弥栄釜(「農家パン・弥栄釜のパンの世界へようこそ-part1-」「-part2-」)。米粉と玄米のパンに郷土料理を合わせた鮨。西洋と和の発酵が溶けあいます。
・鰆塩焼 野酵酢漬け
豪快に串刺しされた鰆の姿に驚き、口に入れた瞬間に驚く。野酵酢の製造過程を追った「春夏秋冬 魚菜料理縄屋 春夏編」に、驚きの正体が見つかるかもしれません。
・丹後産有機栽培のジャガイモを使ったカクテルビシソワーズ風
カクテルとスープの境界を問いかけるような野暮な会話は、今夜は忘れて。鰆の薪焼きの野趣溢れる香りを、白く包んでくれます。
・ウスバハギ昆布〆 つるむらさき 赤紫蘇
ぽん酢あんとウスバハギの煮凍りをかけて
・黒峰シャモの焼き物二種
首と手羽にフルーツガーリックで風味をつけたつみれをつめて
もも肉の塩焼き
オクラと緑茄子に茄子味噌添え
シャモの内側では、漆黒のフルーツガーリックが私たちを闇夜に引きずり込もうと待ち構えていました。(「複合発酵がもたらす世界 フルーツガーリック」)
・丹後産野菜とテキーラとジンのカクテル
すでに酔い心地の観客はペアリングカクテルの登場を待とうと、カウンターに並べられた「お漬物」をひとまず箸休めにつまんで…次々とバーテンダー田茂井義信さんの罠にかかっていきました。胡瓜はジンに浸されたギムレット、茄子はテキーラに漬けられたマルガリータ。「カクテルは飲み物と誰が決めたのですか?」
・クエの唐揚げ ゴーヤ 紫ししとう
・黒峰シャモの出汁で焼おにぎり雑炊
いよいよ演奏もクライマックス。丹後オーケストラを代表して吉岡幸宣さんが焚き火の前に立ちます。「丹後を象徴する“朱”色のスープがおにぎりに染み込むように、皆さまに丹後が染み込みますように」。
・デザート(ミルク工房そら)
黒文字 ジャージーミルク 無花果
柑橘の爽やかな香りを放つ「黒文字」は、丹後では昔から「餅花」に使われて馴染み深い存在。ミルク工房そらのジェラートに、スペシャルフレーバーの誕生です。
アンコールの拍手も止まらず、降り出した雨音にも消せない余韻が響いていました。丹後オーケストラは、姿形をペロリと消して終演です。
次回公演をお食べ逃しなく。
原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD