ようこそ ここは日本三景天橋立
松並木を通り抜ける風が旅人を呼ぶ
ようこそ ここは310 amanohashidate
土地と交わる料理が旅人を待っている
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。天橋立駅から歩いて3分。文殊堂への参道の一角に、小さな料理屋が現れます。海山の幸にポテサラ、モダンな一品から定番の一皿までバラエティ豊かなメニューが丸いテーブルに並びました。さあ、いただきましょう。
310(サンイチマル) amanohashidateは、倉田佑紀さんと夫の崇さんが営む創作和食のお店です。崇さんの出身地である天橋立にサードウェーブコーヒーの「JouJou coffee and bread」がオープンしたのは2012年のこと。3年後には佑紀さんがやって来てランチメニューが加わり、地域の人も立ち寄る場所へと育っていきました。けれど、夜になると周辺のお店は閉まって静まり返る。観光客も地域の人も、行くところがない…。そのことに気がついた佑紀さんは、「食を通したコミュニティの場を開こう」と心に決めます。
カウンターの向こうで仕込みをする倉田佑紀さん
佑紀さんは新潟県出身。豊かな自然と美味しいお米と野菜が身近にある環境で、幼い頃から祖母に料理のイロハを教わり育ちました。進学のために上京し、卒業後に京都へ料理修行に。和食店ではフグ・鱧・カニも捌いて、カフェではデザートやケーキも作って。いつしか「自分の経験を表現して、お客さんに届けるお店を作りたい」と思うようになりました。やがて崇さんと出会って丹後へ。一年に一度、天橋立の砂浜に現れるビーチサイドバーや地域イベントへの出店を重ね、多くの人が「集まれる場所」を求めていることを知ります。個性的な生産者が育てる食材も生粋の料理好きである佑紀さんを刺激。いくつもの導線が絡み合い、一つの明かりを灯します。
「ここで、私は表現してみよう」。祖母に教えてもらった料理、修行先で学んだ料理、何より私の暮らしを豊かにしてくれた料理の可能性をお客さんのテーブルに届けたい。例えば、隣町宮津市の漁師 本藤靖さんから届く魚介。京丹後市の有機農家から届く野菜とハーブ。丹後に住んでいても、食べる機会の少なかった食材がふんだんに使われた料理に丹後人の舌も大満足です。観光で訪れた人には初めて出会う魚や野菜もあるでしょう。カウンターに並ぶお皿から料理にぴったりの一枚を選んで、食材と、色と、質感と、余白も一緒に盛り付けます。
一口ほおばると、味わいのうちに潜む仕掛けに小さく驚く。和食に洋食の要素が交わって、知っているのに知らない味。でも、何を食べてもどこかほっとする味わいが広がっています。それは310の料理が佑紀さんの育った家庭の味だから。旧姓の「佐藤」から名付けた「310」。自らのルーツを表現の中心に据えて、料理の持つ可能性に挑戦しています。
ここは、天橋立。古来より旅人が訪れる場所。その土地の食材をいただけば、身体の内から繋がることができる。その土地の人の声を聞けば、心の内から繋がることができる。住む人と訪れる人が同じ料理をいただき、声が響き合う。生活と旅の境界線がゆるやかに溶けて一つの夜になっていく。
ようこそ ここは310 amanohashidate。
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD