ゴロゴロしたかたちの野菜 ビーツ
皮を向けば 目にも鮮やかな紅が現れる
さて どうやって美味しくいただきましょうか
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。今年もSORA農園が育てるビーツの収穫期がやってきました。日本ではまだあまり知られていない野菜ですが、美しい紅色と深みのある甘さが特徴のホウレン草の仲間です。
SORA農園の有機野菜づくりに触れた「キコリの谷から届くもの SORA農園」もご一読ください。
「海外で生活している時に食べて美味しかったから、丹後でも作りたくて。きれいな色が料理を楽しくするのも好きなところです」。「鉄分が豊富だから、授乳中のお母さんや貧血の方におすすめかな」。SORA農園によるプチビーツ講座に聞き入るのは料理人、板前、研究家、バーテンダーなど食のスペシャリストたち。2018年に美食の都として知られるスペイン・サンセバスチャンへと研修に渡った数名を中心に、丹後の食文化の探求と醸成を目指して「風土ラボ」というグループを立ち上げ、この日はビーツの研究会として丹後中からメンバーが集まりました。
まずはみんなで素材の味を確認しようと、生のままカットしたビーツと火を通したビーツが並びます。非加熱だとさっぱりとした甘みがあり、適度な歯ごたえ。加熱するとほっくりした食感と土の香りのような風味が広がります。「SORAのビーツは子どもも食べやすい味に育っています」。海外で食べるビーツには土の香りが強いものもあるけれど、マイルドな風味は馴染みの薄い日本でも受け入れやすい味。「ビーツの赤色は鉄分からきているので加熱してもあまり変わりません。紫玉ねぎなどはアントシアニンの色素だから加熱すると消えてしまう」。さらに解説も続きます。
各人があらかじめ用意してきたビーツ料理も登場。「さすがの塩梅で味が決まっている」と絶賛されたドレッシングには地元で作られた野菜と調味料がふんだんに使われて。「葉はベビーリーフとしても人気でお店でも使っていますよ」「ヨーロッパでは菜っ葉を食べる文化がないのでビーツの葉は貴重。お浸しや胡麻和えにしても合うんですよ」。葉の天ぷらは酒の肴にも合いそうな一品。ビーツの甘みが一層引き立つジェラートやスムージーは、果物との合わせ技が光っています。「ビーツ単体だと独特の風味が強すぎるけれど、他のものを合わせるとフッと味が消える。バランスが難しい」なんて不思議な特徴もあるようです。
キッチンへと場所を移して、イメージしてきたレシピを試したり、加熱の実験をしてみたり、まな板も鍋も真っ赤に染めながらみんなで調理台を囲みます。フライパンを揺すりながら、煮えたぎる鍋を見つめながら、すり下ろしを作りながら…互いが持ち寄った調味料や食材、レシピへの質問は止まりません。料理のカテゴリはもちろん、年代も経歴もバラバラのメンバー皆が高揚していきます。「もう一つカットして」「ボイルしたのってまだある?」「これ試してみようか」あちらこちらで自然と連携プレーも生まれて、まるでセッションをしているようです。味付けも、技術も、知識も、ここでは全てがオープン。一言のつぶやきも料理の種となって撒かれていきました。
さあ、農家と料理人たちのコラボレーションで埋め尽くされたテーブルをご覧ください。ビーツを紅ショウガの代わりに盛り付けた冷麺、レモンと合わせた煮物、カカオと混ぜ込んだブラウニー、じゃがいもと合わせた餡子風ペースト、きんぴら、たたきゴボウならぬたたきビーツ、なんと炊き合わせまで!ビーツの風味と出汁の味わいが一体となった仕上がりに、大胆なアプローチに挑んだ料理人に、皆が称賛をおくります。隠し味の白味噌に驚きながらもう一口、和食の包容力がビーツの可能性を示していました。
終了直後からメンバー間のネットワークでレシピの共有や道具の相談なども行われ、さっそくメニューに登場したお店も。SNSもビーツの紅に染まっていきました。ひとりで食材に向き合う時間からは得られないものをシェアした風土ラボのメンバーたち。これから料理を通じてその脈動を伝えてくれるでしょう。丹後の美味しいものが身体に染み渡るとき、私たちは風土の一部になれるのです。
原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD