白い砂と浅瀬色の海に松並木の濃緑が続く
昔から変わらない天橋立の風景に
夏の魔法がかけられる
砂浜は青く照らされて
ランプの灯りが暗闇に浮かび
人々の影が波を漂うように揺らめく
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。夏が終わるころ、天橋立には二夜限りのビーチサイドバーが姿を現します。2015年に、一つの建屋に2つのお店が並ぶ小さなスタンドからスタートしました。
ライトアップされた文珠堂の前を通り、プロジェクションによって彩られた廻旋橋*1(かいせんきょう)を渡る。文殊周辺を彩る夏のライトアップイベント「天橋立まち灯り」によって光のアプローチが砂浜へと続き、大人も子どももワクワクが高まっていきます。さあ、天橋立ビーチサイドバーに到着!カラフルなフラッグが風になびいて皆様をお出迎えしています。
テントが立ち並び、宮津、京丹後、舞鶴、福知山、但馬という北近畿エリアのお店が大集合。2019年は310 Amanohashidate、ミルク工房そら、天橋立ワイナリー、Bar Belili、柳町、白杉酒造、uRashiMa、Laboratoire、魚菜料理 縄屋、Tanigaki、aceto、OFFとバラエティに富んだラインナップ。地域の人にとっても、ちょっと背伸びして行きたい個性的なお店ばかりです。イタリアンレストラン、酒蔵、料亭がビーチサイドにやって来るなんて、どんなメニューで驚かせてくれるんだろう?と開催前から食いしん坊の胸は高まるばかり。蓋を開けてみれば、京都市内など遠方からも食いしん坊が駆けつけて大賑わいでした。
家族と、友達と、恋人と。思い思いにオーダーした料理と飲み物を持って、砂浜でくつろぐ人たち。波打ち際には長い一枚のカウンターが立てられ、電球の灯りが人々の笑顔を照らしています。サックスの演奏と波の音が交互に響き、おしゃべりの花がそこかしこに咲いて。でも、とても静かな夜。ここには、大きなスピーカーは要らないのです。波の音、砂浜の感触、秋の空気が少しまざった風。ずっと昔からここにある、天橋立を感じる時間こそがビーチサイドバーの醍醐味なのだから。
丹後人にとって、天橋立の松並木は小さな頃から慣れ親しんだ存在です。その美しさと豊かさを「再発見」したのは、進学や就職で一度は丹後を離れた青年たちでした。都会にはないものが、ここにはある。そう気がついた彼らが仕事や知人を通じて出会い、想いを共有するのに時間はかかりませんでした。飲食やデザインなどそれぞれの分野でプロフェッショナルとして活躍する姿もお互いを刺激していきます。「ここには何もないと言われてきたけれど、素晴らしい自然があって、魅力的な人がいるじゃないか。外から何かを持って来る必要はない。ここにあるものを磨いていこう」。地域内外の人にこの土地が持つ可能性を見せてあげたい。子どもたちに世界に誇れる故郷だと知らせてあげたい。何より、関係者が心から楽しめることを大切にしたい。こうしてビーチサイドバーが生まれ、かたち作られてきました。
5年目を迎えたビーチサイドバー。今年のこだわりの一つが、とってもおしゃれなゴミステーションです。そこには、笑顔で対応するスタッフの姿がありました。仕分けをして、同じ容器を重ねて、整理整頓。来場者も自然と笑顔になって、こんなに幸せなゴミステーションを見たことがありません。2日間で1万人が訪れたイベントで、ゴミを10数袋にまで減らすことができたと言います。
去りゆく夏に寂しさを感じながら、今宵だけはと砂浜で晩夏を味わう。
一年に一度、特別な夜が天橋立を包みます。
来年もビーチサイドバーで会いましょう。
写真提供 前田涼介、天橋立ビーチサイドバー実行委員会
*1天橋立と文殊堂のある陸地を渡す橋。船の運行に合わせ旋回する姿は、名所の一つとして知られる
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD