日本三景のひとつ、『天橋立』の内海に位置する『阿蘇海』。
そこで平成28年の11月より漁師を始めた若手の漁師さんがいる。
『村上 純矢』さん。
村上さんは、漁師だったお祖父さんと、小さい頃から良く海に出て、海のことを色々と教えていただいていたそうだ。そして、お祖父さんが漁師を辞めたことをきっかけに、船舶の免許を取得し、代変わりで漁師となった。
村上さんが漁をする『阿蘇海』は、内海ということもあり、近くの山々からの栄養豊富な水が流れ込む、非常に豊かな海だ。以前ご紹介させていただいた本藤 靖さんが漁をする、『宮津湾』は、天橋立を隔てて外海に当たる場所だが、そことは環境が全く異なる。水の循環があまりないため、夏は海水温が非常に高くなるが、冬には山からの雪解け水が流れ込むため、海水温が非常に低くなる。宮津湾ではトリ貝の養殖が行われているが、阿蘇海では温度の変化が激しいため、トリ貝の養殖が出来ないといった具合に、天橋立を隔てた隣同士の海でも、全く環境が異なるのだ。
現在阿蘇海では6人程の方が、本格的に漁師をしている。村上さんはその中でも最年少の漁師さんだ。ちなみに村上さんの次に若い漁師が、村上さんのお父さんとのこと。やはりどの海でも、漁師の高年齢化が進んでいる。
『阿蘇海のことを知り尽くす』ということを意識して漁をしていると語る村上さんは、季節によって、その時期その時期の美味しい魚を狙った漁をしている。
春はクロダイ、スズキ、ナマコなど。夏になったらワタリガニ。冬になると、トラフグなど。また、5月〜11月にかけては、なんと天然のウナギ漁をしているそうだ。丹後で天然のウナギが獲れることを私自身も初めて教えていただきおどろいた。
『他の人よりもとにかく良いものを出したい』という熱いオモイを持って漁に臨まれる村上さん。締め方などの魚の取り扱いにとことんこだわり、1匹1匹の魚を最高の状態で出荷することを意識されている。
スズキを締める村上さん
今回見学させていただいた際には、『スズキ』を締めて出荷されていた。
たとえ獲れたとしても、やせている魚は出荷しない。身入りがしっかりしているか1匹1匹の魚の状態を確認した後に、血抜き、神経締めと呼ばれる処理を行い、素早く氷で冷やし、鮮度を保つための工夫を行なっている。
村上さんは、とにかくお祖父さんの事を大尊敬している。
幼い頃からお祖父さんと一緒に海出て、漁のことや海のことを色々と教えてもらっていたそうだ。そして、村上さんのお祖父さんは網を作る名人として有名だったそうだ。村上さんの漁師小屋を見せていただくと、大小様々な大きさの網が保管されていた。
漁師小屋の写真
長さが数メートルもある網を組み合わせて漁具を作っていくのだが、中には構造が複雑な網もあり、作るのは簡単でないことが容易に想像できた。魚を獲るための道具を作ることも漁師さんの大切な仕事なのである。
村上さんは、お祖父さんから教えていただいた阿蘇海や漁についての知識を元に、日々研究を重ねて良いものを出荷することにこだわっている。
試行錯誤を繰り返し、全国から情報を集めて締め方などの方法にこだわり、より良い魚を出すための努力をしている。
村上さんが出荷している魚は、阿蘇海の栄養豊富な豊かな海で育った魚であることに加え、獲った後の処理にもこだわった魚である。
現在獲った魚は宮津、舞鶴の市場に出荷をするか、飲食店の方を中心に直接販売するかのどちらかの方法で流通させている。
スズキ出荷の写真、村上純矢さんの名前が誇らしい
宮津と舞鶴の市場は、距離的には20km程しか離れていないが、いつ出すか、どちらに出すかによって同じ魚でも値段のつき方には違いがあるそうだ。最も高い時に比べると、同じ魚が1/10程度になることもあるとのこと。
同じ魚でも、市場の状況で値段が全く異なるようである。
『高くで売れなくても良いが、値段が安定して欲しい。』と語る村上さん。
そこで村上さんは、ひとつの販売方法として直販という方法もとりながら、値段を安定させて流通させることを考えている。
先日、東京で出張料理人として活躍をしている『尾長 知幸』さんに、村上さんのスズキをご紹介させていただき、使用していただいた。
尾長さんのスズキに対する評価は非常に高く、魚の扱いの丁寧さとその味に『スズキの価値観が変わった』と言うほどだった。
村上さんのこだわりは、食材を扱うプロの料理人にしっかり届いていた。
今回村上さんのお話を伺い、『美味しい魚を提供する』ために、漁師さんの影の努力があることが分かった。
美味しさの裏側に隠されたストーリーについて知ると、美味しい魚が更に美味しく感じるものである。
関 奈央弥
京丹後市・網野町出身
栄養士として東京で活動する傍ら、地元丹後の美食材にフォーカスした「tangobar」を立ち上げ食育を通じて新しい風を巻き起こしている。生産者にしっかりと向き合いストーリーを伝える活動は、次世代の姿であり、今後の活躍がとても楽しみな1人でもあります。