いつの間にか見えなくなってしまった、畑から台所への流れ。
その水脈をもう一度取り戻すこと。
日本国内だけでなく、世界でも取り組まれている課題です。
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。和久傳の田んぼ「実の里(みのり)」は山に開かれた棚田。「水が美味しいからいいお米が育つ。僕の技術はほんの少しのだけ」。農家本田進さんを前にしていただきますを伝えられる幸せを、ご飯と一緒に噛みしめました。
「丹」料理長 北嶋靖憲さんと丹後の生産者を訪ねた1日
(台所へ帰ろう 京都三条北白川橋「丹」前編も合わせてお読みください。)
輝く甘いご飯
進さんに和久傳女将桑村綾さんから相談が寄せられたのは9年前。
旧丹後峰山町の老舗旅館として100年以上続いた和久傳はちりめん産業の陰りに伴い京都・高台寺に移転。料亭として丹後の食文化を発信し続けて来ました。「必ず丹後に戻ってくる」と誓っていた綾さんは2007年「和久傳の森」を設立し、環境作りから始めます。「どのようにして和久傳が大切にするものを地域の中で形作っていくのがいいのだろう」と考え、方々へ声をかけると皆から本田さんの名前が挙がりました。当時、公務員として広く地域振興に関わっていた進さんは地域と和久傳をつなぐ橋渡しとして綾さんの相談役に。そしてある日「お米はどうなっていますか」の一言から、進さんが素晴らしい米作りをされていることが分かります。偶然の縁はひかり輝くお米になり、様々な作物栽培にも広がりました。「10年弱をかけ整えてきた土壌を京都市内で表現しよう」。そうして生まれたのが「丹」です。丹後の生産者に出会い、物語を味わい、消費者から産地と繋がった食べ手にしてくれる「小さな台所」。
「丹」料理長 北嶋靖憲さん
最後に訪れたのは株式会社自然耕房あおき。全国にその名を知られる有機農業は故青木伸一さんが約20年前、京丹後市にIターンして始められました。現在は妻の美恵さんが志を持った女性たちと株式会社化し、丹にも野菜を提供しています。畑を歩きながら野菜をかじって「この素材だったらどんな風に食べられるかな」と話す靖憲さんの表情はワクワクと嬉しそう。食材からのインスピレーションを表現出される料理人、靖憲さんに向けてとっておきの野菜が育てられています。「かぼちゃの茎からはかぼちゃの実の香り、これがどんな料理になるだろうか」と収穫したての野菜を手渡し、「これは北嶋さんのために育てている苗だよ」と秋に収穫する野菜の苗を見せて。贈り物をするように、野菜を届ける自然耕房あおき。「味付けのいらない野菜なので、優しい味を引き出す調理をしています。薄味と言われたことはないですよ」。丹でお食事をした方が美味しかったからと直接購入に繋がることも少なくありません。
かぼちゃの茎をかじって。どんな料理が浮かんでいるのでしょう
「丹後には、いいものが育つ環境といいものを作りたい人がいます。この掛け合わせはどこにでもあるものではないのです。そして、まだまだ可能性を秘めている。食べる側と作る側を繋ぎ、一体になって水準を引き上げていく。それがレストランが形にできることだと思っています。台所から人と町が変わる。社会や未来のために“食”に出来る可能性は広がっていく」。
京都・白川のほとり。
きらめく川面と柳の揺れる向こうに、丹後がお待ちしています。
原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD