丹後の宮津市で食酢製造をしております、株式会社飯尾醸造の飯尾彰浩です。
これから1年にわたって丹後の食の魅力について、お伝えしていきます。
一回目はお酢屋として感じる丹後の魅力について。
私どもは明治26年(1893年)に初代、長蔵が創業以来、百二十余年に渡ってお酢を造り続けています。現在では米作り、酒造り、酢造りを一貫して行う日本で唯一のお酢屋として、『富士酢』ブランドとともに知られています。
片田舎の小さなお酢屋が五代にわたって続いてきた理由には、丹後のこの地が大きく関係してきました。
1.原料米は100%丹後の無農薬栽培米だけ
昭和30年代、三代目の輝之助が当時の農薬の危険性に疑問を感じたことから始まり、飯尾醸造では五十年以上にわたって無農薬米を使ってお酢を造っています。
その後、契約農家の高齢化・後継者不足という問題に直面した四代目の毅は、蔵人自らが米を作ることを始めたのです。
しかしそれは決して酢の製造量を増やすためではありません。あくまで丹後の貴重な棚田の維持・保全のためでした。現在は、その想いに共感いただいたお客様が田植え・稲刈り体験会に参加・支援してくれています。
飯尾醸造公式通販サイト利用者のみ参加できる人気の田植え・稲刈り体験会
ベテランの中には、里山の風景など丹後の美しさに惹かれて10回以上も参加いただいている方も。また丹後のコシヒカリは魚沼のそれと同じ特Aランクの常連。美味しい米どころとして知られています。体験会の参加特典でもある『富士酢の米』の優待販売も人気を博しています。
2.絶滅危惧の古式製法を守り続ける
マヨネーズやケチャップ、ソースの原料でもあるお酢。
日本で造られる酢のほとんどはアセテーターと呼ばれる機械装置によって1~2日の発酵と7日程度の熟成で造られる、いわば工業製品です。
一方、『富士酢』は100日以上もかかる古式・静置発酵と250日以上の長期熟成によって造られます。また酢の原料となるアルコールにも大きな違いがあります。
ほとんどのお酢は95%濃度の醸造アルコールを添加して造られるのに対して、『富士酢』は自社の酒蔵に杜氏や蔵人が泊り込み、昼夜を問わない蔵仕事によってもろみ(酒)を醸して造ります。
このように、今ではめずらしい酢造りを守っていることもあって、毎年3,000人ほどの方が蔵に足を運ばれます。大型バスなどのツアーはお断りしているため、ご家族や友人同士の少人数でゆっくり楽しんでいただきます。
とはいえ、近隣に天橋立や伊根の舟屋などの観光名所があることも、お酢蔵見学のきっかけになっていることでしょう。
3.米と酢と魚があれば・・・
酢蔵の目の前には栗田湾が広がっています。
四代目の毅は毎朝、漁港に赴き、捕れたての魚を手に入れ、刺身や焼き魚など、旬の味を楽しんでいます。
丹後のコシヒカリ、富士酢、旬の魚介があれば・・・。
そう、鮨。
現在、鮨屋を開くべく、準備を進めています。すでに箱はできているので腕利きの職人が見つかり次第、オープンするつもりです。
築120年の古民家の蔵を活かした風情ある建物
海のそばであっても刺身をのせただけの寿司を握るのではなく、江戸前のしごとを施した鮨。酢〆やヅケ、煮炊きした鮨。
そんな職人と一緒に、お酢屋だからこそできる唯一無二の鮨屋を目指しています。いつになるかわかりませんが、乞うご期待ください。
飯尾 彰浩
京都府宮津市生まれ。株式会社飯尾醸造 五代目当主。
日本各地の高級鮨店だけでなく、パリやニューヨーク、サンフランシスコなど世界中のトップシェフから支持されている。また、彼の独自のブランディングと論理的な経営手腕は丹後の若手経営者の模範となっている。