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機音が祭囃子に変わる日 加悦谷祭 幾地神楽 Kayadani Festival,Ikuji Kagura

腰を落とし四股を踏み
背筋は軋むほど仰け反って
重力を蹴り上げて飛ぶ
神楽のうちに 人は獅子になる

こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。春になると、丹後・与謝野町ではあちこちから祭囃子を耳にするようになります。それは4月末から5月にかけて執り行われる春の例祭のため、公民館などで神楽舞や太刀振りの練習が始まった合図。

4月の最終日曜に行われる「加悦谷祭」は、祇園祭に流れをくむ与謝野町最大の例祭。大人も子どもも祭り装束に身を包み、辻には神楽や屋台の巡行を待つ人が立ち並び、誇らしげに通りを練り歩く姿が見られます。5月1日の「岩滝祭」、5月3日と4日の「三河内 曳山祭」と合わせ42の神社を奉る、祭の幕が上がりました。


祭のクライマックス 松明を焚いて神楽の到着を待ちます

加悦谷祭の一つ、与謝野町幾地区に伝わる「獅子神楽」の稽古場には、練習に打ち込む若者たちを見守る姿がありました。幾地芸能保存会を立ち上げた新田栄一さんです。「神楽復活は長年の願いでした。このまま失ってはならないと先代達からも言われていました」。幾地神楽は昭和10年を最後に途絶え、獅子頭は神社の蔵に眠ったまま長い歳月が経っていたのです。平成20年を過ぎた頃から地域コミュニティ活性化の機運が高まり、その一端として獅子頭や油単(ゆたん 獅子の身体部分を覆う布)など道具類の調査や文献の研究が行われました。やがて、伊勢神宮の神札を配布して回った「伊勢大神楽」をルーツに持つ伝統芸能であることが明らかになります。源流を同じくする宮津市宮本町芸能保存会の協力を得て4つの演舞を習得し、平成23年の加悦谷祭において76年ぶりに獅子神楽が深田神社に奉納されました。

普段は神社にいる氏神さまが神輿に鎮り町内を巡る。獅子はその道を清めるために神楽を舞います。神苑(しんえん 舞う場所)を祓い清め舞を奉納する位置を定める「清めの舞」に始まり、世の中を宇宙の精気で祓い清める「弊の舞」、天に昇り宇宙の精気を吸い取って地に降り 物を産み育てる「笙がかり」、秋水の真剣を持って天地に存在する悪魔や邪気を払い 春の日のようにのどかで 秋の日のように清々しい世の中にする「剣の舞」の4つを舞う幾地神楽。本来はより多くの演目があり、今後少しずつ増やしていきたいと言います。


深田神社で奉納される獅子神楽

宵宮では、住民の平和と安全な暮らしを祈る「かまど清め」のため朝から夜までかけて全戸を回ります。家には提灯がかかり、広縁ではお接待が用意されて、町中が祭に染めあがっていく。都市部に暮らす人にとって、いつしか祭は「誰かがしている行事を見に行くもの」になってしまいました。けれど、本来は土地の神さまへの祈願と感謝を土地の人が奉納するもの。


ご神体が神社にお戻りになって祭が終わります

機音が祭囃子に変わるころ、きっと丹後を訪れてみてください。ここには、先人たちが守り伝えてきたほんものの文化が今も息づいています。

原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD

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名称
加悦谷祭 幾地神楽
Name
Kayatani maturi
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加悦谷祭 幾地神楽 Kayatani maturi
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