東かおりさん制作風景 庭に自生する苧を緯糸に織り込む
よその土地から移り住んだ若者ふたりは
産地に新しい風を吹きこんだ
ふたりと機屋たちは
やがてひとつの想いを実らせた
その名は「TANGO+(プラス)」
こんにちは、PARANOMADテキスタイルデザイナーの原田美帆です。染織工房「山象舎」堤木象さんと東かおりさんが産地と歩んだ30年の物語。二人の創作活動と、移住直後の様子を描いたpart1、part2、part3も合わせてお読みください。
自然と人のあいだに 染織工房「山象舎」 堤木象と東かおり part1
自然と人のあいだに 染織工房「山象舎」 堤木象と東かおり part2
自然と人のあいだに 染織工房「山象舎」 堤木象と東かおり part3
山象舎からの眺め
百貨店に丹後織物の製品を持ち込んだはずなのに、振り切って持ち帰って来てしまう!?前代未聞の行動に出た木象さん。3日後、なんとバイヤーが丹後を訪れます。「個展をしましょう」。驚きのオファーを「嫌だ」とまた断ってしまいました。「組合の製品を持っていったのに、僕だけ展示をするなんて出来ない。企画品の36反を全部買い取ってくれるならいいよ」。無茶苦茶だと言いながら、バイヤーはなんと2週間で半数近くの色無地を売り上げてしまいます。上司も驚きの展開に、「これで、個展をしてくれるやろ」。バイヤーの真剣さが込められた一言でした。
「丹後をなんとかしてくれ」。と言い続ける木象さんに、バイヤーはこんな人を見たことがないと惚れ込んでしまったのです。それからは二年に一度、百貨店で個展を開いて作品を展示販売するようになりました。個人事業主が百貨店と取引口座を持つなど考えられない時代のことでした。手染めの着物は1反を染めるのに数ヶ月を要します。「二年に一度の個展に合わせて15着を用意するのがやっとだよ」。精力的に制作し、個展を開き続けました。
木象さん 制作風景
丹後の暮らしにもすっかり馴染んだ1998年、今度は京都府織物・機械金属振興センターから相談を持ちかけられます。「丹後で最終製品を作るグループを作ります。そこに入ってもらえませんか」。この「デザイン塾」と名付けられた活動に参加したメンバーの多くが、後に結成される「TANGO+(プラス)」の仲間となっています。
現在ではストール、バッグ、アクセサリーなど様々な最終製品と販売実績を持つ事業者たちも、最初はゼロからのスタートでした。銀座など一等地でも展示会を開きますが、なかなか商談や販売には結びつきません。木象さんは、このままではダメだと銀座松屋に催事企画を持ち込みます。百貨店の地方展は今でこそ注目されるイベントですが、当時はまだ珍しく松屋では初めての試みでした。わずかな予算を会場費に注ぎ込み、企画者の木象さんは手弁当で奔走。蓋を開けてみれば、一週間で約750万を売り上げていました。
日本橋高島屋 丹後展 搬入時の風景
デザイン塾の後には「丹後織物ルネサンス事業」が京都府の支援事業として開かれました。デザイナーやコーディネーターを招聘し、織物事業者たちと製品開発などを進める取り組みです。これまでの活躍を買われて、木象さんも講師役としてプロジェクトに参画。毎年いろんな分野で活躍する講師が呼ばれ10年近く続いた活動でした。木象さんが担当したのは、「これまでオリジナル製品を作ったことが全くない」人たちのチーム。1年かけて帯揚げを1つ開発して、3年間で2回の展示会を開く。少しずつ、小さな実績を積み上げるしかありません。しかし6年目に「大きな展示会を開いてください」と要望が届きます。丹後産地を想う時、底なしのエネルギーで動いてしまう木象さん。「このチーム単体では難しい。丹後中に声をかけてもいいか」と断りプロジェクトの規模を広げました。デザイン塾で活動を共にした仲間たちを集め、高島屋セントラルバイヤーへと企画を通し、京都と日本橋での巡回展を成功させたのです。2011年、移住から23年が立っていました。この催事をきっかけに「TANGO+」が誕生。その脈動は、10年以上前から息づいていたのです。
京都高島屋にTANGO+常設コーナーが開設された時の展示
地域の機屋のために動いたことで、相手は動いてくれた。人のために動くと、物事が動き出す。移住のきっかけとなったアートプロジェクトでも他人の作品のために無償で働いた。「人のために働くってどういうことだろう。それが僕自身のプロジェクトだった」。
堤木象さん
次回part5、最終話へ続きます。現在とこれから、山象舎が見据える丹後産地の未来像をお楽しみに.
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD