バックパックを背中に担ぎ駅のホームに立った。
久々に押し入れから引っ張り出したバックパックが肩に馴染む感触が心地よい。
いつも使っているビジネスバックは、家に置いてきた。
使い古したバックパックと最近購入した一眼レフカメラが今日の相棒
パーパーッという到着音とともに列車が到着し、乗り込んだ。
ここは、京都府北部に位置する丹後半島
日本三景で有名な天橋立がある宮津市
赤れんがパークがあり、海軍ゆかりの地として知られる舞鶴市
明智光秀が築城した福知山城がシンボルとなっている福知山市
与謝野町は丹後ちりめんの一大産地で、物流の要であったちりめん街道が今なお残っている。
日本の夕日百選にも選ばれ、夕日の名所である夕日ヶ浦のある京丹後市
そして、開湯1,400年の歴史を誇る関西屈指の温泉地であり、著名な文人墨客も訪れる城崎温泉がある兵庫県豊岡市
そんな宮津市、舞鶴市、福知山市、与謝野町、京丹後市、そして兵庫県豊岡市の総沿線距離114kmを結ぶ列車を「京都丹後鉄道」が運行している。
「たんてつ(丹鉄)」という愛称で、観光客だけでなく沿線の地元の方からも愛されるローカル鉄道だ。
今日の旅の目的は、京都丹後鉄道が運行し、海の京都の走るダイニングルームと称される「丹後くろまつ号」に乗車すること。
(春の陽射しの中を疾走する丹後くろまつ号)
丹後くろまつ号では、落ち着いた木のぬくもりが感じられる優雅な車内で、
丹後の自然豊かな絶景とともに、地産食材を使用したこだわりの料理を堪能できる。
「FOOD EXPERIENCE」をテーマに、まさに旬の食材と風景を楽しめる列車
同じ列車でも、ここでは車窓から見える景色と空気感が全く違うことに驚かされる。
自分のスペースと存在を確認することに心を削られる
そんな都会の喧騒と通勤ラッシュとは、また違った時間の流れと空間がここには存在している。
列車に乗ると、いつも微妙な距離感と微妙な緊張感の両方を感じる。
列車に乗ることは、目的地に行くためのただの手段
そう割り切って考えることが、いつの間にか当たり前になっている。
だけど、今日は何か違うように感じる。
目に見えるものは
地下の真っ暗なコンクリートの壁やホームの蛍光灯ではなく、時折覗かせる透き通った海の色、鮮やかな渓谷、田園風景、ひとの暮らし・・・
目に映るひとつひとつの景色が新鮮に見え、ココロが軽くなる
同じ列車に乗っているお客様の表情もどこか柔和で、
木漏れ日が差すように温かく見える
(車窓から眺める奈具海岸の景色)
ゆっくりと列車に揺られながら、
美しい風景とその土地の美味しい旬の食材を味わう
そんな何物にも代えがたい、贅沢な時間に想いを馳せているうちに漆黒の丹後くろまつ号はゆっくりと音を立てて走り出した。
(続く)
次回以降は、「丹後くろまつ号の魅力と京都丹後鉄道の誕生秘話」に迫ります
※写真提供:京都丹後鉄道
長瀬 啓二(Keiji Nagase)
京丹後市網野町出身
大学在学中にオーストラリアへ留学しその経験を基に2017年に「旅は“日常”と“非日常”の交差点」をコンセプトに外国人旅行者へローカルならではの出会いと体験、そしておもてなしをサポートする “Tangonian”を設立しグローバルな視点で新しい丹後の旅のカタチを発信している。また、元中学校英語教員・元鉄道会社勤務という肩書きも実に面白い。