遠赤外線で焙煎されたコーヒー豆。

ドリップすると垂直に泡が立ち上がり、甘い香りが鼻を抜け、雑味も苦味もないまろやかな味が広がります。

コーヒーをいただきながら目に映るのは鮮やかな「チタンブルー」に輝く自転車。

鏡面加工に加熱することで深みのあるチタンブルーに発色

こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。「与謝野にチタンフレームを作る自転車屋さんがある」。人伝に聞いていた噂に、やがて「与謝野でコーヒー焙煎機を作っている人がいる」という噂が重なりました。田んぼの風景に一等目立つショールームの扉を、開けてみましょう。

「俺は戦いに行っていた」。WELDONE代表　小西栄二さんが修行時代を振り返って表現した言葉です。車庫みたいなところで仕事がしたくて、ものづくりの世界に飛び込んだ栄二さん。外国の映画に出てくるような光景への憧れだったのでしょうか。世界に認められる技術を追求したいとものづくりの現場を渡り歩き、造船所時代には一番難しいと言われる部署への配属を希望。2000人の技術者のトップを目指し、溶接技術の全国大会へも出場を果たします。

WELD ONE代表　小西栄二さん

「何かをするなら頂上まで登りたい」タイプの栄二さんはいち企業の技術職に留まらず、プロ向けにバイクの特注パーツを製作。全てのラインナップを完成させましたが「部品には主導権がないことが嫌だった」ため、最終形態まで完成させることのできるハンドメイドバイシクルへと舵を切ります。造船所勤務のピークと個人受注が重なり始めた時には、独立の準備はできていました。

「いきなり人が追いつけないものを作ろう」。そう決めて、高度な技術が要求されるチタン溶接に特化した自転車のフレーム制作を開始。自らもレーサーである経験を生かし、乗り手のフィーリングを反映させたザインを生み出していきます。独創性に富んだフォルム、電気の通る液体を筆につけて描いた桜の花、金粉が施されたカーボンファイバーパーツ、民谷螺鈿のLeather textile で包んだサドルにハンドル。1点ずつに技術と意匠が盛り込まれた自転車たち。

陽極酸化処理を応用して描かれた桜

民谷螺鈿の織物が使われているサドル

ところが国内の展示会ではなかなか受注に結びつきませんでした。「日本人は技術ではものを買わない。やはりメーカーものに弱い」現実に直面し、欧米の展示会にも出展。現地で賞賛の言葉を贈られます。自らの信念を乗せた自転車作りを広げようとスタッフの育成にも力を注ぎますが、チタンフレーム制作が可能なレベルには一朝一夕には達しません。

その頃、地域のコーヒー店から焙煎機の制作を頼まれていた栄二さん。開発を始めてみると、壊れにくい構造、シンプルな仕組みに魅力を感じ、持ち前の凝り性が発動。さまざまな熱源を試し、セラミックヒーターによる遠赤外線の焙煎方法を見出します。直火や温風による焙煎と違って豆の内部から加熱されるため、ムラがなく繊維が破壊されず酸化しない。焙煎から2~3ヶ月たっても豆の表面に油は浮いてきませんでした。

さらにはタッチパネルのプログラミングにも挑戦。紆余曲折を経てポリテクカレッジとの共同研究に結び付けました。余熱から焙煎、冷却。その時間と温度を何十パターンも設定し、豆の種類や他の穀物の焙煎にも応用しています。

現在はカカオの焙煎も研究し、BEAN TO BARの試作を進めているそう

「味が一緒ならまたネームバリューの差になる。味で勝ちたい」。

溶接技術を鍛えられて、お客さまの喜びが感じられるものづくりをスタッフに任せる。「僕自身は次なる製品を開発して、常に新しいものを作りたい。先に行きたい」。唯一無二の技術力を発揮したものづくりに取り組む栄二さんは、レースに挑むアスリートそのものでした。

WELD ONEは次に何を生み出すのか、青い光だけが知っています。

原田　美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD