漆喰の壁と格子窓が美しい伝統的な家屋。

襖を開けると、そこは織物の海。

色彩をかき分けて、大胆な陰影が浮かび上がる生地を手にして。

こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。三年前、初めて宮眞株式会社を訪れた時の感動は今でも忘れられません。いつまでもこの海に浸っていたいと思いました。

世界のメゾンが注目する織物を生み出す宮眞株式会社。代表取締役宮崎輝彦さんに海外展開の舞台裏を覗かせてもらいましょう。

宮眞株式会社　代表取締役宮崎輝彦さん

2007年、丹後の織物事業者が海外普及を本格化させようとパリで開催したJAPANブランド・丹後テキスタイル展に参加した輝彦さん。そこで知り合ったコーディネーターを通じて、海外への一歩を踏み出します。「最初はどんなものを作ったらいいのか分からず迷走して、雰囲気を掴むのに５年くらいかかりました」。ミラノやフランスで開催される展示会に参加すると、反応はあるのに取引にならない。「とんがり過ぎていたのかなと気がついて、味付けをマイルドにしていった。ようやく、変わっているけど違和感なく受け入れられる生地のラインが見えてきた」。丹後で培われたおおらかな感性と高い技術は、スタート時からデザイナーの目を射止めるクオリティを備えていたのです。名もなき職人たちの仕事は、世界を魅了する織物を完成させていました。そこからチューニングをかけて時代に調和させた輝彦さん。

先染め、プリント、手染めなど多彩なバリエーションの生地

現地のバイヤーは、とにかく生地サンプルを見る速度が速いそう。「ぱっとチェックして、目と手触りで候補を絞り込んでいる。本当に分からない時だけ聞いてくるのはそれだけ勉強しているから。数を見ているので判断が早い」。海外のメゾンには1シーズンに何千点という生地サンプルを集めるリサーチ部門があり、そこからデザイン部門による企画、さらに別チームに引き継がれて試作へと進みます。組織化され、ハイスピードで進められるファッション業界の仕事は展示から見本制作、納品まで半年もありません。ビッグメゾンから生地を選ばれても短期間に織り上げる瞬発力が必要になり、無理せず受けない判断をすることも。従来の国内市場から海外市場の割合を増やしつつ「今は我慢のしどころ」。生産量と価格、トレンドと自社の方向性、新しい技術とニッチ市場、様々な要素に対するバランスが求められています。

新しいプロジェクトに向けてセットされた経糸

宮眞は明治時代から織物を家業とし、半衿や帯揚げを製造していました。ポリエステル縮緬の製造や織機の広幅化など早くから新技術に挑戦。バブル崩壊の余波が産地へも及んだ10数年前に海外向け製品の開発に着手し、冒頭のパリでの展示会へと繋がります。現在ではフランスとイタリアを中心にアメリカにも販路を開拓。一部のデザインは社外デザイナーにも発注し、そのやり取りは見本市のデータやヨーロッパトレンド情報の収集、社会情勢から見たデザインの傾向分析まで幅広く行われています。

最新の織機を扱う職人

輝彦さんは大学卒業後に家業へ入り、社内の職人たちから知識と技術を受け継ぎました。宮眞が柱とする製品に、絹と綿、ウールや麻などの「絹と異素材の交織」があります。絹は「フィラメント」と呼ばれる細く長い繊維からなる糸。一方、綿やウール、麻などの比較的短い繊維を縒り合わせたものを「紡績糸」と言います。フィラメントと紡績糸では準備工程から仕上げまで扱い方や注意点が異なり、一つの生地に織り上げるには多くのノウハウが必要です。先代たちが積み重ねてきた技術を軸に、糸の本数や密度計算、経糸と緯糸の交差や仕上げ加工など糸が織物になるまでを自社設計されています。

ものづくりを支える様々な設備

「子どもが、自然とやってもいいなと思える会社にしていけたら」。子育て中の父親でもある輝彦さんは、優しい笑顔でそう話してくださいました。子どもにかける愛情と機場への想いは自然と繋がっています。丹後の織物は家族の物語の現れでもあるのだと知りました。

原田　美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD