1983年から続く網野のサーフショップ『SOLDIERBLUE SURF』。”海の京都”の老舗サーフショップとして知られ、丹後一帯のサーファーが集う憩いの場となっている。 八丁浜の波やサーファー・スピリッツについて新オーナー、吉岡隆弘さんに話を聞いた【前編:波は恋愛そのもの、だからハマって依存する】に続き、後編では初心者からプロまでオールマイティに対応する『SOLDIERBLUE SURF』のサーフィン用具の選び方や接客ポリシーについてご紹介。
Profile:吉岡隆弘さん
網野にある唯一のサーフショップ『SOLDIERBLUE SURF』のオーナー。福知山店の店長を経て、2020年6月より同店の新オーナーに。
――お店には、初心者のお客さんもくる?
もちろん。これからやりたいという人もいっぱいくる。
――そのときは、どんなアドバイスを?
道具を扱うプロとして、その人に合った道具というのを、自分たちの原理原則に従って適切なものを提供する。でも、それ以上でもなければ、それ以下でもない、少なくとも僕の場合は。
――それはなぜ?
サーフィンの感じ方は人それぞれだから。波ひとつ乗るにしても、どんな波が来ても怖くないという人もいれば、ちっちゃい波でも「キャー、怖い」という人もいる。どこが楽しくて、どこが楽しくないのかなんていうのは赤の他人にはわからないことだから。人それぞれ、いろんな好みがあるわけだし、その人の感覚とか、人の好みとかいうものを僕はどうこうするつもりはないし、できるものでもない。自分としては「その人がこんな感じでやりたい」というものに対して、プロとしてどんぴしゃなものを提供するだけ。余計なところまで立ち入らないように、そこは気をつけている。
――「まったく波乗りをやったことがない。でも、乗りたい」と言われたら?
まず、細かいことを聞く。「泳げますか」とか、「水は怖いですか」とか。高い波を見て、恐怖を感じるのか。それとも「あんなのに乗れたら最高」と単純に思うのか。サーフィンって、楽しいスポーツであると同時に、とても危険でもあるので。最悪の場合、命を落とすこともある。だから、なにがその人にとって楽しいかも考えるけど、それ以上に大事なのが安全面。たとえお客さんが望んでも、その人にこの道具を与えたら危険だと思うものはすすめないし、どの道具が、その人にとっての”よい塩梅”かは、とことん検証する。
――それは、20代前半、自分が怪我でサーフィンと長い期間、離れなくてはならなかった経験も大きい?
そうかもしれない。
――店で揃えているボードに共通することは?
うちの店は、八丁浜の目の前にあるので、まず八丁浜の波質に合う道具。もちろん、八丁浜以外でも使えるけど。
夏の八丁浜
――八丁浜の波質に合った道具の特性は?
八丁浜は、春から秋にかけてはすごく優しい穏やか波で、秋から春までは結構パワーのある波になる。それに合ったボードかな。一概にこうだからこうとは言えないけど。
――量販店と専門店の違いは?
量販店は単純に「こんなの欲しい」とお客さんに言われたものを売るだけのところも少なくない。でも、僕らはお客さんが間違っていることを言っていたら、「間違ってますよ」と指摘する。
――例えばどんな風に?
小さな波でしかサーフィンしたくないと思っている人に、小さなボードが欲しいと言われたら「大きなボードに乗ったほうがいい」と説明する。僕自身は、大体サーフボードを売るのに1時間以上は余裕で話す。「一から始めたい」と門をたたいてくるお客さんに対しては、すべての道具をコンプリートするために、2~3時間はかけるのが常。フィンひとつにしても、サーフボードや波質に合わせて調整しなければならないし、じっくりと適切に伝えるように努めている。
いろんな波質に合ったフィンが並ぶ
―道具選びにおいて、初心者が陥りがちな過ちは?
初めてやる人ほど、単純に見た目でかっこいいとか、色が好みとか、安くて揃えられるとか、そのあたりで道具を選びがち。でも、道具次第で、サーフィンライフというのは、本当にガラリと変わるので、どうせ選ぶなら、しっかりとしたものを選んだほうがいい。僕たちはプロだから、お客さんの成長するスピードにも責任をもって接客したいと思っている。
――どんなふうにラインナップを揃えている?
とにかく”まんべんなく”を心がけている。というのも、どんなお客さんが来ても、しっかりと提案できるように予め準備しておきたいから。サーフボードは常に店頭に30本は揃えていて、店に並んでないものを合わせると40本くらいの在庫は常に維持するようにしている。そのぶん、コストはかかるけど、満足度は確実に上がるので。この規模の専門店の中では在庫数は多いほうだと自負している。
店内に並ぶ多種多様なサーフボード
――数万円のサーフボードと、20万、30万するサーフボードの違いは?
大量生産でつくられていて、かたちだけボードっぽいか。それとも、カリフォルニアやオーストラリアなど、サーフィンのメッカでつくられていて、確かな技術としっかりとしたノウハウを継承している職人がつくっているかの違い。細かなところの技術というのは、滑ってみるとやっぱり全然違う。とはいえ、うちも初心者用に安価なボードも置いてるけど。お客さんによってさまざまなニーズがあるから幅広いお客さんに対応できるようにしている。
――オンラインショップはどんな風に運営を?
オンラインショップは「こんなのありますよ」と見てもらう場。ネットでパラパラ売れるものって、小物だったり、アパレルだったりするので。本格的に海で使う道具に関しては、メールで問い合わせが来ても、僕の場合は「電話ください」とすぐ言っちゃう。メールのほうが確かに言葉はきれいだけど、コミュニケーションがしっかりと取れるかといえば、やっぱり限界を感じるので。
――商売やってて、最高と思う時は?
お客さんがシンプルに海で喜んでる時かな。気分いいとか、調子いいとか。その笑顔見れた時。
――売るのは楽しい?
もちろん。とはいえ、売ること自体より、売った道具を海で使ってもらって、「むっちゃ調子いい」と言ってもらえて、こんな風に成長したいと言っていたお客さんの思い通り、どんぴしゃにハマったときが一番楽しい。
――それはなぜ?
道具を買ってもらうのって、ただの一通過点というか、そこでスタート地点に立ってるので。商売だけで考えたら、買ってもらうことがゴールかもしれないけど、僕はそうじゃないと思うから。その道具がその人のサーフィンライフをいかに充実したものにできるか。そこが一番肝心。「まあまあだね」と言われるよりは、「最高だね」と言われて、「よし!」となるほうがうれしい。「でしょっ!」と言えるほうがね。
――逆に大変なことは?
大変なことってなんだろうなぁ。専門店をやることによって大変だと感じることは特にないけど。今後、年取って体力的にきつくなることなのかな。でも、それはそれで楽しいし、大変なことも楽しい気がする。大変なことって、ちょっといやだなとか、ちょっと苦労してきついなと思うようなことでしょ。そこもひっくるめて楽しいかな。
――全部楽しい?
うん、全部楽しい。
――本当に? 嘘偽りなく?
あえて言うなら、田舎という立地なので売上をつくるために、細々と写真撮って、パソコンをパチパチして‥‥‥みたいな作業があるでしょ。僕ら、言ってみたら海でサーフィンやるような人間にとって、そういう作業はいわば苦痛(笑)。やりたくないというか、面倒くさいというか。あえて挙げるとするなら、それがいやかな。真逆だから(笑)。
――最後に一言、総括を。
ハッピーがいいっすよね。シンプルにいい波に乗れて、みんなが幸せになれたらいいと思う。
波に乗る吉岡さんと守山さん
SHOP INFO
(昔の機屋をリノベーションした趣のあるお店)
1983年にOPENした八丁浜唯一のサーフショップ。2020年6月に八丁浜のビーチフロントへ移転OPEN。サーフボード、ウエットスーツ、アパレルなどの販売ほか、サーフボード・SUP・ウエットスーツのレンタルや、各種スクールやサーフボードの試乗サービスも実施。今季より、プロサーファー・斎藤智也によるステップアッププライベートスクールをスタート。ていねいなヒアリングやマンツーマンによる指導でスピーディーに問題点改善につながると好評を得ている。ライディングの動画撮影を行い、効率的にサーフィンのレベルアップにつながる。新店舗には、ボードロッカーとシャワールームが完備され、ボードロッカーは1スペース月額5000円で最大3本まで預かり可能。契約者は、駐車場・鍵付きのロッカー・シャワールーム(ドライヤー有)が使い放題
ライター
山葵夕子 与謝野町在住
足の向くまま、気の向くままに。感じることは書くけど、感じないことは書かない、ものぐさな物書きです。