目に映った瞬間
手が触れた瞬間
丹後が世界を魅了していく　言葉も国も超えて

こんにちは、PARANOMADテキスタイルデザイナーの原田美帆です。フランス パリで開催される展示会「メゾン・エ・オブジェ」をご存知でしょうか。毎年1月と9月に開かれ、5日間の会期に約90,000人の来場者がある世界有数規模のインテリア見本市です。3000社ものブランドがひしめく会場に、丹後の機屋が「TANGO OPEN」の名前を掲げて出展しました。

「TANGO OPEN」は、2018年に制定された丹後産地の新しいブランド名であり、決意表明でもあります。丹後ちりめんと言えば、シボのある和装の絹反物を思い浮かべる方が多いことでしょう。産地を代表する織物ですが、近年は広幅の洋装地、綿や麻などの交織、螺鈿や藤など独自の素材と技術を使ったテキスタイルなどが次々と生み出されています。織物の総合産地としての丹後を表す名前として、TANGO OPENは誕生しました。OPENという英単語がもつ「ひらく」という意味に「人をひらく/道をひらく/夢をひらく」と、いくつもの決意を込めた名前です。メゾンエオブジェへの参加は、そのうちの一つ「世界市場への道を切り開く」挑戦でした。

ホールに一歩入ると、遥か彼方まで出展企業のブースで埋め尽くされた光景が広がり、クラクラと言葉を失いそうになります。あちらこちらで設営工事の音が響き、フォークリフトが走り回る。設営のプロフェッショナルたちが、ハイスピードで実際の店舗と見間違うような空間を作り上げていました。

TANGO OPENの展示スペースは「Bespoke Materials Japan」と名付けられた、日本の独創性豊かな素材を集めたブースにあります。ガラス、瓦、木材、木炭、そして織物。歴史に培われた技術と自然豊かな風土が育んだ素材が、世界のインテリア市場にどう受け入れられるのか。いよいよ、挑戦の幕開けです。

会場を早足で行き来するのは、世界中から集まった目利きたち。TANGOのスペースに足を踏み入れた時の反応に、緊張が走ります。その目線はどの生地を追っているのか、触れた時の表情の変化はどうなのか。建築家、インテリアデザイナー、バイヤーなど第一線で活躍するプロからは、生地幅や納期、品質性能への質問が次々と繰り出されます。自分たちの求める素材と出会うために皆が真剣なのです。

有名ブランドがひしめく会場で、彼らの目と足を止めることは容易ではありません。どのスペースも隅々まで趣向が凝らされ、ブランドの世界観とメッセージを発信していました。カラーリングやフォルムだけではなく、環境保全や社会貢献など企業倫理も欠かせない情報として表現されています。いまここから世界のトレンドが生まれようとする会場に、3000社と90,000人を掛け合わせた想いが渦巻いている。これが、メゾン・エ・オブジェ。

TANGO OPENが見せたテキスタイルにはたくさんの賞賛の言葉がありました。他では見たことがない、触れたことがない。これまで知らなかった質感に、驚きの表情を見せる人は少なくありません。「この織物にふさわしいプロジェクトが動く時には、ぜひ使いたい」。丹後の持つ技術と品質は間違いなく世界トップレベルですが、その存在はまだ一部の人にしか知られていません。ものづくりの国 日本、伝統と文化の息づく京都、その奥に世界を魅了する丹後産地がある。

「織物はその場所でしか生まれ得なかったもの。

あなたたちの場所でしか、あなたたちの織物はできない」。

来場者のひとりが、呟いた言葉です。ちりめんを育み、ちりめんに育まれたTANGOの織物が世界に知れ渡るその日まで、私たちの挑戦は続きます。

原田　美帆　与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD