ある日 動物に踏まれて
またある日は 虫が入り込んできて
その年は 晴れ間が多くて雨の少ない一年だったのだろう
一枚の板に現れた杢は 日記のように木の生きてきた時間を示していた
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。福田工務店の倉庫を、一歩一歩と奥へ進む。国内外から集めた木々の一枚ずつからお喋りが聞こえるようで、まるで探検家になった気分です。
昭和15年に創業した福田工務店。初代 福田政数さんは京丹後市弥栄町黒部地区に広がる田んぼの中に、工場と材木倉庫を構えました。ケヤキを中心とした良質な建築材や世界の銘木を仕入れ「家は一番いい木で建てないといかん」を口癖に、実直な家づくりを貫く大工でした。山から切り出した木は、建築材として使える状態になるまで長い年月を必要とします。伐採後に丸太のまま数ヶ月は山に寝かせ、製材所での製材を経て、薄い板材なら数年、厚いものなら10年近く、大黒柱であれば30年ほどかけて乾燥させます。その間にも反ったりねじれたり、樹種や生えていた場所など様々な要因から木はその姿を変化させ続けます。「仕入れの時には、普段からどれだけ木を触っているか経験と知識が求められます」。乾燥ひとつ取っても、木を扱う技量が求められることを三代目正吾さんが教えてくれました。家業に入ってから木の奥深さに引き込まれた正吾さん。かつて先々代が各地の材木商を渡り歩いたように、月に何度も銘木を求めて材木市場や同業者の倉庫を訪ねています。
株式会社福田工務店三代目 福田正吾さんとパートナー透子さん
「少子化の時代に、新築着工数は日本中で減少しています。けれど、うちには先々代、先代が築いた材木のストックや職人さん達の加工技術がある。木と暮らす豊かさを、僕なりに届けていきたい」。2017年には「KUKU(クク)」と名付けた事業をスタートさせました。既存の建築業よりもより消費者の生活に近い商品展開で、例えば飲食店のカウンターや一般住宅のテーブル、木製のお皿にお店の看板など、様々なかたちで現代のライフスタイルに無垢材のぬくもりを添えています。
今日は新築住宅に納品するテーブル製作の日。お施主さまが選んだアフリカ原産の「アフリカンチェリー」が、研磨のためにベルトサンダーに通されていきます。「色味が似ているからチェリー(桜)の名前がついているけれど、正確な樹種は違うんですよ。樹高は20メートル、幹の太さは1.5メートルほどの大木に育ちます」。何年も前に正吾さん自身が競り落とした銘木を加工する、それは自分の目利きが正しかったのか対面する瞬間でした。加工から納品まで全てを行うから、仕入れの目が一層鍛えられるのです。一度に削るのはわずか0.3ミリほどという緊張の作業。木の様子を観察しながら何度もサンダーをかけ、水平を削り出していきます。この時点で表面はフラットに仕上がっていますが、さらに板が鏡のように風景を写し込むまで磨きをかけるのは手作業。
「手で触って使うものだから、手で仕上げたいんです」。ワイヤーやゴムブラシ、サンドペーパーを使い分けて、納得の手触りになるまで加工の手は止まりません。十分に乾燥させた木であっても加工中の気温の変化で変形しようとするため、塗装仕上げまで時間との勝負だと言います。塗装はすぐ近くの協力工場で行われました。濡れたような艶をまとって、木目が浮かび上がります。
倉庫に眠る材木は、美しい表情を潜めたままその時が来るのをじっと待っています。「今回はどの材を選ぶだろうか。面白い表情を見つけられるかね。おお、それだ、それだ」。先々代からのメッセージがそこかしこに隠された福田工務店の材木倉庫。正吾さんにとって、木々は時間を超えたコミュニケーションでもある。それは私たちにとっても同じこと。木の生きてきた時間と世界、加工に携わった職人たちの想いがあるから、木はこんなにもあたたかい。春にオープンするKUKUのショールームでは、どんなメッセージに出会えるのでしょうか。その扉が開くとき、木々の探検が始まります。
福田工務店の手がけた住宅に納品されたテーブル
|| 4月20日オープン ||
LUMBERYARD(ランバーヤード) / 株式会社福田工務店/KUKU展示場
一枚板/木材/木製品の展示・販売
OPEN:毎金曜日、第一・第三土曜日 10:30~16:30
上記以外の曜日や時間については予約制
(予約:0772-65-2211 又は info@kukulife.jpまで)
原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD