車道の傍らに広がる黄金色に色付いた田園風景が酒造りの季節の到来を告げる。
Brewery Year。
日本語では酒造年度(7月1日から始まる)酒蔵で使われる暦だ。
重たそうに頭を垂れ、刈り入れの時を今か今かと待ちわびる稲穂は古来より豊かさの象徴である。
白き米へと磨かれた白米は炊き立てのご飯となり食卓を彩る。
その甘美な旨味を持つ米を、古より人々は醸し酒として楽しんできた。
時には神々に捧げるお神酒として、時には人々の生活に寄り添う友として。
日本海を見渡す棚田
丹後半島にはその酒を醸す酒蔵が今なお10蔵残る。
蔵に運ばれた新米は職人の手により丁寧に醸され、それぞれの旨味を纏う酒へと変化を遂げる。
その種類は軽く100を超え、決して呑み手を飽きさせることはない。
旨い酒を造るのは米の良し悪しだけでない。
良き水と麹、酵母、その土地の風土や文化。
そのすべてを纏める職人の業と経験、そして感性。
その結晶が地酒であり、旨き酒である。
丹後の地酒は旨味が凄い。
米を削っても米の旨味は削らない。
旨味の強い丹後産の米を使うなら、米の旨味を残さなければ米を活かしたことにはならない。
蔵それぞれが米と向き合いたどり着いた答えが芳醇旨口。
特に示し合わせた訳ではないが、たどり着いた各蔵の味がこの土地の味となった。
さらりと上品でキレの良い酒が流行りの昨今においては、特異なのかもしれない。
でもそれで良い。
なぜなら地酒とは一時の流行りではなく、その土地に根付いた文化だからだ。
丹後には他とも違う地酒文化が育まれている。
たとえば造り手。
丹後の杜氏には蔵の息子もいれば、女性も外国人もいる。
異業種からの転職者もいれば、造りを継ぐ為に養子に入った者もいる。
天才的な感覚で感性の酒を醸す人もいる。男3兄弟で造る蔵もある。
それぞれの人生をかけて米と向き合い醸す酒は、その全てが手造りだ。
丹後には機械が作る酒は無い。
AIが躍進するこの時代においても、コンピューターによって酒造りが管理される蔵は一つもないのだ。
そんな造り手の血の通う酒が醸される季節が間もなくやって来る。
冬の口には各蔵の新酒が出来始めるだろう。
今年の酒の出来はどうなのか? 呑み手のそんな楽しみはワインに限ったことではない。
待ちどうしい冬の始まりを、秋の酒ひやおろしをやりながらしばし待つ。
ハタハタ・鰈・沖ギス・バイ貝、秋野菜にキノコにジビエ。
丹後には待ち人を寂しがらせない豊かな食がある。
どの食材を肴に冬を待つか、どの酒と共に冬を待ちわびるか。
秋の夜長に悩みは尽きない。
田茂井 義信
丹後・網野町出身
丹後の食材と文化を取り入れたBARを生業とするバーテンダー。丹後のお酒そして地元の歴史などとても博識であり、今後の酒蔵連載はとても楽しみであります。