もうもうと立ち上る蒸気の向こうに
たくさんの笑顔が見える
ここはTANGO OPEN VILLAGE
300年続くちりめんの里から生まれた
ものづくりを体感する場所
美しい織物をつくる工場を探検して、カフェでおいしい野菜を食べ、世界中から集まった人とおしゃべりを楽しむ。近い将来、こんな光景が丹後で見られるかもしれません。丹後織物工業組合が取り組む『TANGO OPEN VILLAGE』構想は、加工場の広大な敷地に工場、織物ミュージアム、カフェ、ショップ、オーベルジュ、農場、桑の森などの施設が集まるクラフトツーリズムを描いたプロジェクトです。
丹後織物工業組合は、大正10年に丹後縮緬同業組合として創立。丹後ちりめんの生産に欠かせない精練工程を担う組織として、100年を超え産地を支えてきました。現在は染色、撥水など特殊加工の設備も拡充し、他産地の生地も加工しています。そのほか絹の成分セリシンを活用した化粧品・スキンケア用品の開発、組合員のプロダクトを集めたECサイトの運営、国内外に向けた販売促進のサポートと多様な事業に取り組んでいます。
丹後ちりめんの生産には、精練を行う加工場が欠かせません。しかし、織物事業者が減少していく中で老朽化した建物や設備を維持し、産地規模の縮小に対応しなければならない難しい場面を迎えています。この課題に長年向き合い、考え出したのがTANGO OPEN VILLAGE構想です。その第一弾として、2020年に長年使われていなかった建物をリノベーション。木製ブロックのアクセント壁がエントランスを飾り、丹後産のウッドチップを敷き詰め、展示什器が並ぶモダンな空間に生まれ変わりました。10月に行われた「TANGO TEXTILE EXIBITION」は、組合員の反物がずらりと並び、伝統産業が洗練されていく未来を予感するものでした。
2022年12月のテストマーケティングイベントではプロダクト展示販売スペースも完成し、商品を手に取る来場者の姿がありました。これまでは業者向けに行われていた加工場の工場見学もリニューアル。スマートフォンのアプリを使い、職人たちの仕事を見ながら音声案内が聞けるシステムに生まれ変わりました。訪れた方達からも分かりやすいと好評です。各所のサインやパンフレットに迷宮を探検するようなデザインも盛り込まれて、大人も子どももワクワクするツアーが作られていました。
ここまでは、大きなプロジェクトのほんの入り口です。今後は、貴重な織物を集めたミュージアム、アーティストやデザイナーが滞在制作するスタジオ、丹後の上質なお土産が購入できるショップ、ひと息つけるカフェが計画されています。世界が注目するクリエイティブなスポットになる日もすぐそこでしょう。でも…それだけではありません！工場で稼働するボイラーの排熱を利用した農業施設、そこで育てた野菜や果物を提供するレストラン、シルクの寝具に包まれるオーベルジュ、養蚕のための桑畑…TANGO OPEN VILLAGE構想はテキスタイルをベースとした幅広い事業の可能性を描いています。
かつて1万軒を超える機屋があった丹後。家の隣も向かいも斜向かいも、みんな機屋だった時代がありました。「クラスメイトの親はほとんど機屋関連の仕事で、それ以外の家は1人か2人だったなあ」。地域でよく聞くお話です。丹後ちりめんに関わる人口は生産量とともに激減し、今では機場を見たことがない人が大半になってしまいました。加工場がTANGO OPEN VILLAGEに変化し、再び地場産業として人々の生活を支える拠点になれたら。絹の恵みを受けて繁栄してきた丹後に、次の恵みのかたちをシェアできたら。このプロジェクトは、機屋だけのものではありません。丹後に暮らす人、丹後に関わりをもつ人、みんなで誇りと喜びを分かち合うことを目指しています。
丹後織物に触れたこれまでの記事もぜひご覧ください。
・TANGO is OPEN to the world 「Crossing Traditions -交差する伝統
・TANGO is OPEN to the world 「Maison & Objet-メゾン・エ・オブジェ」
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD
