このオムレツ おいしいね
あそこのハウスにいるコッコちゃんが産んだ卵から作ったんだよ
一緒に会いに行こうか
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。田園風景の中に建つレストラン「欧風ダイニングクッチーニ」。もとは紋紙の倉庫だった建物を改装して8年前にオープンしました。今では「記念日はクッチーニで」というファンも多く、地域にとって欠かせない存在です。
野菜・卵・魚・肉。味わいは素材そのものだから、仕入れた時に8割は決まるとシェフ岩西拓男さん。「だから生産者の方に美味しいものを作ってもらわないと美味しい料理は作れないんです。僕たちはお互いを支え合う関係でありたいと思っています」。お店が始まった頃からできるだけ丹後産の食材を使ってきました。遠くは久美浜の直売所まで買い出しに、少し車を走らせて京丹後市の有機農家にも仕入れに向かう。さらにここ1~2年は、町内の農業法人や個人農家の食材が増えています。「レタスとエディブルフラワーならあそこ、イチゴはあそこという感じで困ったら電話しようという農家がキリないほどいます」。丹後中にある広がりの中で「近さ」に利点を見出した拓男さん。毎日でも顔を合わせるような間柄に「同じ考え方をしているのが分かりますから」。
クッチーニ シェフ岩西拓男さん 野菜畑を見つめて
その中の一人、茂籠進さんの鶏小屋に招いていただきました。「こんな近くに共感できる人が見つかって」。進さんは専業農家として米や野菜を栽培するほか、サイクリングロード沿いに山羊を飼育して子ども達に動物と触れ合う場を作ったり、与謝野町ホップ生産者組合に入り収穫体験を計画したり、幅広い取り組みをされています。二人の出会いは「きょうと食いく先生」の活動を通じて。子どもたちが「食」について学ぶことを支援する京都府の制度で、給食の調理員さんへの出前講座などを実践されています。進さんが名古屋コーチンの飼育をされていることを知った拓男さんは、野菜屑などを「コッコちゃん」のご飯に運ぶようになりました。コッコちゃんの産んだ卵をクッチーニで提供して、また残った食品をご飯にする。近隣の料理旅館や菓子屋など、循環の輪は少しずつ広がりをみせています。「きちんとした食材を使ったところでないといけないし、卵の数も限られているから。理解してくれるところじゃないといけないんだ」。
農家 茂籠進さんとコッコちゃん
与謝野町出身の拓男さんは高校卒業後に料理の道へ。東京で働いた後、丹後に戻ってきました。お店の場所を探す間、酒蔵やカフェ、地域のスーパーで働きながら10年近く離れていた丹後を観察します。そこには素晴らしい野菜が町外に出荷され、地元の人はスーパーで他府県の野菜を買ってくるサイクルがありました。「地域の野菜をメインにした店にしよう。“この野菜はこの味”を味わえる料理を作ろう」。そうしてクッチーニの目指す方向を決め、丁寧に歩んできました。「小さくても確実なことを続けて、できることを育てていくことが大切なんです」。農家や地域との関係も、料理そのものも、ひとつひとつを積み重ねて。日々の営みを通してしか生まれない味わいが、お皿の上に広がっています。
クッチーニからの眺め コッコちゃんの鶏小屋も見える
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD