みどりの自転車かけてゆく
漁港へつづく小さな道
みどりの自転車かけてゆく
暮らしと仕事をつなぐ道
みどりの自転車かけてゆく
これまでとこれからがつながる道
こんにちは、PARANOMADテキスタイルデザイナーの原田美帆です。舟屋で有名な伊根町にCAFE & BB guriがオープンしたのは2019年。冬の寒い日に、あたたかな明かりが灯りました。お店を始めたのは當間一弘さん、千明さんファミリー。一家が千葉から移住してきたのは2016年のことでした。
「おはようございます」。伊根漁港に颯爽と現れた千明さん。バケツをぶら下げて自転車で登場です。港に戻ってきた船からたくさんの種類の魚が水揚げされ、勢いよくベルトコンベアで運ばれてきました。さあ、「浜買い」の始まりです。漁師たちが出荷の準備をする横で、地域の人たちも新鮮な魚を買い求めることができるのです。
この日は細長い口が特徴的なヤガラが大漁!「すごいですね」と写真をパチリ。日々SNSに投稿する記録を撮り、世間話をしながら目当ての魚をバケツに入れていきます。刺身がおいしい魚、鍋に向く魚、いろんな調理法をここにいる人たちから教えてもらったそうです。魚を選んでいる間も、お会計に並んでいるときも、おしゃべりが尽きない千明さん。「ここに来ると元気がもらえるんです」とパワーチャージした様子。また自転車にまたがって、guriへと帰っていきます。
自家製バンズに、たっぷり野菜とカリッとあげた旬の魚を挟んで、サワークリームソースとスパイスを添えて…「伊根の海にまるごとガブッとかぶりついて!」と声が聞こえてきそうなサンドイッチプレートが完成しました。
カフェメニューにはタルトやガトーショコラ、季節のフルーツが嬉しいフレッシュケーキがラインナップ。ひと目、ひと口で虜になってしまうインパクトがぎゅっと詰まっています。
Cafe & BB guri インスタグラムより日々の風景
千明さんのお菓子作り、その根底には「海外の田舎町で食べたおばあちゃんの素朴なお菓子」というイメージがあります。アグリツーリズムで食べた滋味深い郷土菓子や、小さなお店に並ぶ焼き色のしっかりついたお菓子…実際に田舎町を訪れて、触れたもの、食べたものがベースとなってguriの味になっているのです。地方への旅を重ねる中で出会ったのが「ロ スコーリオ」というイタリアの宿。小さな港町にある、家族経営の宿とレストランの魅力に感動し「いつか、こんな宿をやるのもいいね」。と一弘さんと話したことが現実になりました。
もともと東京を拠点とする会社に勤務していたふたり。一弘さんは事業企画や空間デザイン、そして運営まで行うチームに在籍し、千明さんは食に特化した本屋の店長として活躍していました。ある年、一弘さんが千葉県に新しくできるサービスエリアのプロジェクトに任命され、2人は現地に引越しをします。自分たちがそこに住んで魅力を体感し、地域の人たちと一緒になってプロジェクトを進めようと考えてのことでした。これまでにもいくつかの地域活性プロジェクトを作り上げていたからこそ、地域側にどれだけ深く携われるかという部分にフォーカスしていきます。
SAがオープンした後もマルシェを企画したり、地域の産品を使ったメニューを開発したり、地域との関わりを継続していました。その頃、「いちはら×アートミックス」という芸術祭にアーティストとして加わる機会を得ます。千葉県市原市のもつ資源を現代アートと融合し、より魅力的なまちを再発見しようという趣旨のもと、一弘さんと千明さんは「山登里(やまどり)食堂」を期間限定でオープン。閉店した食堂を改装し、竹のテラスを作ってヨガイベントをしたり、地域の保存食である切干大根や獣害対策によって捕獲した猪を使ったサンドイッチを提供しました。「この頃には、夫婦で店を作り上げるイメージが見えてきていたと思います」。少しずつ、将来の暮らしのイメージが浮かび上がってきていました。
Cafe & BB guri 當間一弘さんと千明さん
時を前後して他の仕事で伊根を訪れた一弘さんは、その風景に一目で惚れ込んでしまいます。「いつか本当に地域側の人間になって、その土地に覚悟を持って関わっていきたい」と考えていたふたり。ここがその場所だと感じて空き物件を探し、何度も伊根を訪れました。町の人との出会いが背中を押して移住を決意し、店舗と住居の改装期間を経てguriが出来上がるまで、7年の歳月が経っていました。
guriの客室に飾られた丹後ちりめんのタペストリー(KUSKA製造)
guriは伊根を含む若狭湾で「漁礁」を意味する言葉。食をキーワードに旅人や地域の人が集まる場所となることを願って名付けられました。海に沈められた漁礁が藻をまとい、やがては豊かな森となる。それは、ふたりがこれまでに歩んできた風景が重なり合ってguriという場所を描いていくかのよう。伊根の海に揺られながら、ゆっくりと大きなguriに育っていく姿が楽しみです。
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD