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なっちゃんの生芋 100%蒟蒻 山本農園 Nachan's 100% raw potato konyac Yamamoto farm

ぱちり 薪の火が爆ぜて
ぷくり 気泡が浮かぶ
きらり 瑞々しく光った
ぷるん 蒟蒻のできあがり

大雪が降った冬の朝、工房の扉を開けるとリズミカルに働くなっちゃんの姿が目に飛び込んできました。おくどさんには大きな鉄鍋が2つ、薪の炎がぶくぶくお湯を沸かしています。なっちゃんの作る「生芋100%手作り蒟蒻」は、知る人ぞ知る冬の丹後グルメ。弾けるような歯切れと瑞々しさに驚き、しっかり練り上げられた弾力を味わって、余韻にほんのり芋の甘みが残る…初めて口にした時、蒟蒻はこんなに美味しいご馳走だったかと唸りました。

なっちゃんこと山本農園 山本夏江さんの蒟蒻づくりは、原料となる蒟蒻芋の栽培から始まります。自社農園、近隣の協力農家、福祉施設での栽培は収穫まで3年かかる長い土仕事。ゴツゴツした芋は「カットすると素手ではビリビリして触れないんだ。食べたら口が火傷したかと思うんよ」というから驚きです。生のままでは触れることさえ危険な材料を、昔の人はどうして食べられるように加工したのでしょうか。蒟蒻づくりから、人の探究心や食品加工の不思議さも見えてきます。

丸ごと茹でた蒟蒻芋を適当な大きさにカットし、ミキサーにかけてドロドロの状態に。専用の機械で練りながら少しづつ灰汁を加えると、乳白色だった蒟蒻芋は灰がかった色に変化していきます。ほのかに蒟蒻の香りも漂ってきました。「昔は手捏ねだったから、ほんとうに大変だったよ」。見るからに重そうな芋をさっと取り分けて、手際よく作業を進めるなっちゃん。隣の地域からお嫁に来た当初は、夫 孝市さんの母が蒟蒻づくりをおこなっていました。「昔は“お楽しみ”でようけ作っては配ったり売ったりしとんなって。きちんとした加工場を整備して、事業としてやり出したのは30年くらい前からよ」。加工場がスタートして半年ほど経ち、夏江さんはそれまで勤めていた職場を辞め、農家の仕事に専念することになります。

山本農園では季節に応じて米作り、ネギ、トマト等の栽培を行い、雪に閉ざされる冬の間は蒟蒻、味噌、麹の加工品を生産しています。麹は、麹菌を仕入れ米麹を育てるところからスタート。出来上がった麹は真空パックにして販売し、甘酒づくりや味噌づくりに使われます。その麹から作られる味噌は旨味たっぷりの味わいで、一度使えば他の味噌に戻ることはむずかしいでしょう。味噌づくり教室も開催し、丹後のあちこちから参加者が集まります。

味噌や醤油を家で仕込むのは、昔は普通のことでした。大豆を育て、加工品にするサイクルが暮らしの中に息づいていたのです。我が家だけで仕込むのは大変だからとご近所が集まって共同作業にしたり、味噌を仕込むのが上手な家には味噌を、醤油が得意な家では醤油…と担当ができたり、そのうちお店で買うことが当たり前になりました。山本農園の味噌や蒟蒻は、昔から続く営みのかたちを私たちに伝えています。

蒟蒻づくりのシーズンは11月終わりから3月いっぱい。「12月ごろまでビニールハウスの仕事があるのと、3月は田んぼの準備があるから注文分の生産だけよ」。蒟蒻づくりは夏江さん一人で行い、一度に作る数は約200枚。芋を湯がく仕込みに3時間、翌日に行うミキサー・練り・成形・茹での作業にたっぷり半日以上かかります。「お父さんが薪を作ってくれているから出来る仕事だよ」。加工場では一人で立っていても、10時と15時の休憩時間には孝市さんと愛犬コロちゃんとストーブを囲み、コーヒーで暖を取ります。


山本農園 山本夏江さん 孝市さん コロちゃん

販売は京丹後市のスーパー「いととめ」、農園での直接販売、京都市内の会員制宅配サービスで展開されています。「お客さんまでの道がしっかりと見えている所と契約して、きちんと納めることが大切。だから頑張って作らないとね」。練り上げた蒟蒻を木製の枠に流し込み、滑らかな手つきで慣らし、すっと切り分けてお湯の中へ。

なっちゃんの手にかかると、蒟蒻芋は気持ちよさそうに流れていきます。「湯がくまでは柔らかくて形が保っていられないのよ」。鉄鍋で湯がくと、鉄分と反応して僅かに赤みを帯びた色になります。その色を見て、「鉄鍋で作ったんか」と言われることもあるそうです。型に流して、切り分け、茹でる。何回も作業を繰り返して樽いっぱいの蒟蒻が茹で上がりました。

蟹に鰤に野菜にジビエ…冬の丹後グルメリストに、手作り蒟蒻も加えてください。驚きと共に、口福が広がることお約束します。冬の訪れが、今から楽しみですね。

原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD

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