喉うるおす
一杯のドリンク
暮らしに　土地に
豊かな余韻をもたらして

夏空のもと、雪に凍えながら、にぎやかに笑いあって、ひとり静かな夜に…
一杯のドリンクに心まで解きほぐされた体験は、きっと誰にもあるのではないでしょうか。

「“ドリンク”にはもっと可能性があると思っています」。2021年、京丹後市峰山町にwine shop YOiNE(ヨイン)がオープンしました。店主 由良拓馬さんは京丹後市網野出身。北近畿唯一のワインショップとして、ショップとオンラインの販売、旅館やレストランへドリンク提案、プライベートパーティのドリンクセレクトなどを手がけています。料理人や農家など作り手と連携した活動も多く、今や地域のフードシーンに欠かせない存在です。この夏は八丁浜海水浴場近くに浜店もオープン。コーヒーや上質なノンアルコールジュースを8月17日まで期間限定で販売しています^*。

拓馬さんは高校卒業後に大阪の調理師専門学校へ進みました。飲食の道を選んだ理由は、食事の場の雰囲気が好きだったから。その背景には、幼い日々の食が楽しかった思い出があります。卒業後はイタリアンレストランに就職しますが、配属されたのはサービス担当でした。そこで次第にサービスの面白さに目覚め、2年務めた後にフレンチレストランのオープニングスタッフに転職。サービス全般のスタッフとして入社した拓馬さんは、お店の変遷と共にドリンク、特にワインの知識を深めていきます。

趣味の旅行では国内外のレストランを訪ねました。その中で、“料理は美味しいけれどドリンクがアンバランス”なお店が少なくないことに気がつきます。特別な旅行の食事なのに、よい体験を求めているのに一般的なメーカーのビールやジュースしかない…。それは北近畿エリアも例外ではありませんでした。

12年半の勤務を通してソムリエの資格も取得。次はアメリカでサービスとして活躍したいと退職しますが、不運にもビザ取得が難しい政権時代でした。ならば英語圏のアジアはどうだろうと香港も考えましたが、こちらも政治が不安定な時期と重なり、コロナ禍に突入し…時代に翻弄される中で育児も始まりました。夫婦ともに丹後出身ですが「少年時代から丹後の外に出たい、都会に行きたいと思っていました。Uターン直前まで帰ると思っていなかった」そうです。里帰りを通して子育てにいい環境と思うようになったけれど、職場がない。それならば作ってしまおうとUターンと起業を決めます。

改めて北近畿をリサーチすると、ワインを扱う専門店がなく観光業のエリアに恵まれ、高価格帯の宿も多い。近年では地産の食材を活かしたレストランやモダンな飲食店もオープンし移住者も増えている。料理のレベルに見合うドリンクを提供し、暮らしや旅行体験の価値を高めることができると確信しました。「飲食店だと活動の場が店舗に限定されるけれど、酒屋だから関わる人の数が増える。与えられる影響の大きさも増えるところが、酒取扱店のメリット」。ショップの開店準備中には、期間限定ワインバーの店主としても地域に馴染んでいきました。朗らかな人柄も相まって、飲食店や旅館とのつながりは拡大し続けています。

現在、wine shop YOiNEには約400種のワインが揃い、ノンアルコールドリンク、日本茶、クラフトコーラなども棚に並んでいます。「ワインショップは最初のスモールスタートです。少しずつステップを踏んで、やれることを広げていきたい。コーヒーや日本茶も美味しいものを紹介して、ドリンク全般の盛り上がりを作りたい」。拓馬さんがレストランのサービスで得た経験、さまざまな店を訪れた体験が丹後の食をさらに豊かに盛り上げてくれる。小さなワインショップから始まる物語が、これからどんな景色を見せてくれるのでしょうか。YOiNEセレクトのドリンクを飲みながら、楽しみに暮らしたいと思います。

*営業日は変更となる場合があります。

Instagram アカウント https://www.instagram.com/wineshopyoine/ にてご確認ください。

原田　美帆　与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD