旧街道にたたずむ工房で
昔も今も絹糸が紡がれている
移りゆく町の中で　変わらぬものを守りながら

こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。シルクニットのオーダーメイド婦人服を製造するコウジュササキ株式会社を訪ねて、与謝野町加悦にある「ちりめん街道」にやって来ました。ここは江戸から明治・大正・昭和初期にかけて、丹後ちりめんの隆盛とともに栄えた旧街道。現在も日本の近代化を象徴する建造物が多く残り、重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。旧家の向かいに位置するコウジュササキの工房兼ショップ「前蔵工房」は、本宅より前面に蔵が作られた建築であることからその名前がつけられました。

コウジュササキ株式会社 佐々木貴昭さん

ショップに並ぶ婦人用スーツにカーディガン、コサージュやモダンなアクセサリー。4代目佐々木貴昭さんが商品を手に取り見せてくださいました。鮮やかな色合いに目を奪われ、深みのある色合いに引き込まれます。糸染めからスタートし合糸や撚糸を重ねた糸が、独特の色の世界を生み出していました。

「糸づくりから仕立て上り製品の販売まで手がけているところは、丹後では珍しいと思いますよ」。コウジュササキの独自の歩みは「ニット」製造に転換した1985年に遡ります。大正初期に創業し、丹後のほかの機屋と同じく丹後ちりめん白生地製造元佐々木織物として、撚糸から整経、製織まで機音を響かせていました。40年ほど前からは自社製品や仕入れた製品を持ち、問屋や小売店などへ行商も始めます。その内の一つに、シルクニットの洋服がありました。知り合いを通じて、コウジュササキが絹糸の供給をしていたものです。当時先染めの太い絹糸は非常に珍しく、合糸や撚糸の技術と設備を持っていたからこそ作り上げられた製品でした。

しばらく白生地製造と販売、糸の卸を並行していましたが、やがてニットの製造元が事業をたたむことになります。「糸を作る技術を持っているので、ニットの製品化までをやってみたらどうかと提案されたようです。出機のように、全国には“ニッター”という職人がいて、その人たちに仕事を作ることも含めて託されて」。大学卒業後はIT企業の営業職に着き、ネットビジネスの出現した2000年代にかけて猛烈に働かれました。「システム提案という職を通じて、世の中にある幅広い業種を学べた時間でした。だんだんとネットワークの背景にあるアナログな世界に引かれて、製造を行う現場の人たちがいて、物を運んでくれる運送会社の人がいるということが心に残っていきました」。第二子の誕生をきっかけに故郷での暮らしを決め、現在も取引のある問屋での修行を経て丹後に戻られました。製品づくりから催事会場での受注販売まで、家業を一歩ずつ習得していきます。

ニット編み機。貴昭さん自らもニットを編む

同時に貴昭さんが注力したのは、地域でのさまざまな活動でした。「御輿を担ぐ人のいない場所に、僕も住みたいと思わないから」。ちりめん街道を中心に町の活性化に取り組むグループには、奥さまの由美子さんも中心メンバーとして参加。春のひなめぐり、初夏のきものマルシェ、秋には着物で街道を散策するイベントなど地域内外の人が交わる場を作り、かつてのにぎわいを彷彿とさせる光景を生み出しています。

無限に広がる色の世界

街道に紡がれる機音と暮らしの価値を確信して、絹糸の輝きと地域のにぎわいを次代へ紡ぐ。ちりめん街道へお越しの際には、きっと蔵の戸をくぐってみてください。丹後だからこそ生み出すことのできるシルクニットの世界がお待ちしています。

原田　美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD