青・蒼・碧・あお
翠・緑・翡・みどり
鮮やかな絹糸が織り込まれていく
色と色が重なり合って 新しい色が生まれる
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。篠春織物の着尺や帯を手にとって見つめると、一つの色の中にたくさんの色が隠れていることが分かります。柔らかさ、深さ、艶やかさ…色糸が奏でる表情にすっかり惹きこまれてしまいました。
篠春織物4代目 篠村雅弘さん
「うちの製品は色と組織の組み合わせで出来ているので、糸の状態の時と織りあがった時では見え方が変わってきます」。篠春織物4代目 篠村雅弘さんが色の魅力を紐解いてくれました。篠春織物が得意とする製品は、ジャカード織機の組織使いによって限られた色数を多色に見せる紋織物。一つの色面に見えても、実際には何色もの糸が交差しているために独特の発色をしています。さらに、糸の重なり合うパターンが変わると同じ組み合わせでも変化が起こる。「織ってみないと分からない。言葉で説明するのが難しいので、つい“試験を取りましょう”と言ってしまうんです」。操業が終わった工場で、毎晩のようにサンプルを織る雅弘さん。
何冊ものファイルに収められた試験織
篠春織物の創業は明治中頃、戦争による中断を乗り越えて1965年に法人化を迎え54年目になります。雅弘さんが家業に入った23年前頃から先染め製品の製造を開始し、主に糸の状態で精練・染色したお召緯という強撚糸を使って織り上げる「お召縮緬」を製造していました。12~3年前から生産量も増えてきたけれど、西陣からの注文品を作るだけでは「丹後らしさ」は生まれない。ちょうどその頃、丹後では京都府織物・機会金属振興センターを中心として産地再構築の動きが高まっていました。デザイナーを招へいした商品企画など、現在第一線で活躍する機屋の多くが参加していたと言います。
雅弘さんが自社製品として注力したのが「膨れ織」。先代が取り組み始めた技術で、糸の交差によって1枚の織物の中に2枚の織物が重なり合った部分を作る織物です。そこに丹後の撚糸技術を掛け合わせ、ふっくらと立体的な意匠を生み出せるよう工夫を重ねました。撚糸による縮みの差を使った、色合いと立体感で見せる織物はガーゼのような柔らかい風合いと相まって評判を呼び、少しずつ先染め織物の割合が増えています。今後は、着物を着ない人が見てもかわいい、かっこいいと言われる製品を作りたいと目標を語ってくれました。「今どのようなものが好まれているのか。例えばインテリア雑誌を読んだり生活の周りを見渡したりして、色柄の感覚を掴み取るようにしています」。
和装に加えてモダンなストール製品も
工場には、20代の若手からベテラン職人までグラデーションを描く従業員の姿がありました。職人の高齢化が危ぶまれる産地において、次世代への技術継承は切実な課題です。糸繰・撚糸・整経そして製織と一通りの工程を学ぶのに10年はかかると雅弘さん。これからの製品のあり方、工場のあり方を探りながら、今日も機場に向かいます。
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD