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自然と人のあいだに 染織工房「山象舎」 堤木象と東かおり part1 Dyeing studio “Sanzosya” Mokuzo and Kaori part1

絹地の上を刷毛が走る
ヤシャブシの実は彩りとなって木象さんに語りかける
「私のこと ちゃんと扱わなきゃ上手く染まってあげないわよ」

こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。丹後の山中に染織工房「山象舎」を構える堤木象さんと東かおりさん。二人は自然と人が交わる姿を求めて、草木染めを主体にした作品を制作しています。


染織工房「山象舎」 堤木象さんと東かおりさん

「植物からいただいた色で、その植物を描く」。
木象さんのミニマルな制作プロセスを追いかけました。


ヤシャブシの実

丹後の白生地の上を走る筆先が、ヤシャブシを描き出していく。西日本に多く自生している日本固有の落葉高木です。葉のギザギザ、葉脈、枝葉の節、丸い実。墨のわずかな滲みも、ゆらぎのように図案の一部となっていきました。無数の細部が連続する緊張感の中で40分くらい描き続けていると、筆先から絹擦れの音がするようになるのだと言います。余分な力が抜けた瞬間をそのまま数十分続けられることもあれば、10分ほどで止んでしまうこともある。「なるべくいい精神状態で描きたいと思っていて、ちょうど散歩をするような感覚がいい」。散歩という言葉の響きと裏腹のアスリートのような集中力に驚きます。

この日に用意されたヤシャブシの染色液は明るい茶色をしていました。その色を見つめていると、黄や赤の色素も目に感じられるようです。たっぷりと刷毛に含ませ、生地に乗せていく。素早く、無駄なく。「なるべく考えずに、手が動く自然のリズムにまかせて」。何も加えず煮出しただけの染色液は染めに不都合な成分も含んでいるため、とても扱いにくい。僕自身がヤシャブシのアシスタントになってどうやって動かしたらいいのか教えてもらっていると言いながら、あっという間に一反が染められました。この後、明礬(ミョウバン)や錆釘を使って色を定着させる作業を何度も繰り返します。だんだんと色は深みを増して、最後に蒸し器にかけて完成です。


完成した作品

「ヤシャブシはね、赤土で栄養のない山に最初に根付いて土を肥やすんだ。他の草や木を呼んで、まわりが育つと枯れていく」。31年前、地域の人にヤシャブシのことを教えてもらって以来、そのフロンティア精神に惚れ込んだ木象さん。丹後の地で初めて染めた植物はもちろんヤシャブシ。時は1988年、バブル絶頂期でした。東京の美術系大学院を修了し、作家活動や予備校講師の仕事を掛け持ちしていましたが、東経135°日本標準時子午線最北の地で行われるアートプロジェクトに参加するため丹後を訪れます。活動の拠点となる小屋を建てようと仲間と相談していたときに、何となく「この横に」と選んだ木こそ、地域の人に「ハゲシバリ」と呼ばれるヤシャブシでした。ハゲ山にも根を張り崖崩れを防ぐことからその名がついたのでしょう。


ヤシャブシの実を集める木象さん

参加したアートプロジェクトは、屋外で制作する大規模なもの。一年半にも渡る制作期間中、木象さんは丹後の豊かな山野に触発されて染めによる制作を始めます。油画を専攻していた木象さんにとって、植物の生態は未知の世界。気になる葉っぱを採取して煮出し、朝に布を漬け込んで夜に取り出して色を見る。そうして植生を見つめるうち、日記のように習慣となり、定点観測になり、植物の名前をどんどん覚えていきました。最初の年には花盛りだった「タチツボスミレ」が、翌年には時期も遅く少ししか咲かなかった。次の季節も見たい、次の年も見たいと繰り返すうち、丹後に捕らわれてしまいました。


丹後の植生についてまとめた冊子 木象さん作

「僕は欲しい色に合わせて採取時期の調整するというより、今回はこういう色が出たのかって自分も観客側に回っているところがある」。自然は言うことを聞いてくれないもの。それを受け入れる「いい加減さ」は、常に自分と向き合う制作活動を長く続けていくための術(すべ)なのだと教えてくれました。東京での作家活動中は、買ってきた絵の具で表現することに悩んでいたと言います。丹後で出会った豊かな自然と地場産業の丹後ちりめんを組み合わせた現在のスタイルは、ずっと探し求めていたかたちだったのです。

堤木象さんとパートナーの東かおりさんが自然と共に歩んだ31年は、機屋と歩む31年でもありました。後に産地に大きなうねりを産むことになる2人の軌跡を、これから数回にわたってお届けします。かおりさんの作品に迫るPart2をお楽しみに。

原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD

INFORMATION

名称
山象舎
Name
Sanzosya
住所
京都府京丹後市網野町浅茂川1077
Address
kyoto,kyotango,amino,asamogawa1077
URL
https://tangoopen.jp/textile/山象舎/
Url
https://tangoopen.jp/textile/山象舎/
名称 Name
山象舎 Sanzosya
住所 Address
京都府京丹後市網野町浅茂川1077 kyoto,kyotango,amino,asamogawa1077
URL Url
https://tangoopen.jp/textile/山象舎/ https://tangoopen.jp/textile/山象舎/