家具屋は夢見る
美しい家具が 人生に寄り添う姿を
家具屋は夢見る
地域に世界から人が集い みんなが輝く姿を
こんにちは、PARANOMADテキスタイルデザイナーの原田美帆です。与謝野町三河内地区の一画に、上質な家具を生み出す工場があります。株式会社アリアソシエイツの与謝野工場、「Factory Home」。1946年、有吉家具店の工場兼展示場として生まれた工場は、高度成長期にあつらえ家具の製造を止め、小売家具の倉庫になりました。そして2012年、再び「ものづくり」の拠点としてオープンします。
3代目 有吉寿和さんは、物心ついたときからお絵かきや図工が好きな子どもでした。「親は商売で忙しかったから、祖父と祖母に育てられました。おじいちゃん子だったんですよ」。創業者である祖父は、彫刻や絵画にも取り組む趣味人。その血を受け継いだ寿和さんは、芸術の道へと進みます。大学で彫刻を専攻し、卒業後は丹後に戻ってきました。「大学に入る前、父親に病気が見つかって。すぐに手伝いに入ることになったんです」。
有限会社アリアソシエイツ 有吉寿和さん
家具の配達をしながら、地域の子どもたちに向けて絵画教室を開き、彫刻作品の制作やバンド活動も続けていました。それは、家業と自己表現のバランスを探る日々でした。25歳の時、改めて「家業を捨てて芸術家になることはできない」と思い至ります。父親と祖父への想いと、芸術家として一流になれるのか自分に問いかけた結論だったそうです。そこから、寿和さんの意識は家具の世界へと向かいます。「やりたいこととは何なのか。家具屋として、一生懸命やれることをやって決めよう」。
代替わり当時は、大量生産の製品が市場を占めていました。メンテナンスや修理よりも買い替えを勧めるメーカーと販売システムへの違和感は膨らむばかり。そこで寿和さんが出会ったのが、北欧の家具でした。デザインはもちろん、その背景にある生活と文化の豊かさにも感銘を受けます。「ずっと使ってもらいたいと思えるものを販売したかった。だから、修理できる工場が必要だったんです」。
さらに、その視線は室内全体へと広がります。「日本は欧米に比べて家屋が小さく収納部屋が取れないので、収納家具が必ずいる。だけど、建築に属する家具にあまりかっこいいものがないと気がつきました」。いかに美しく空間に馴染むものが作れるか、細部と全体のバランスが取れていて、人の空気感を表すような…寿和さんの芸術家としての感性と家具の世界が、いよいよ深く繋がり始めたのです。家具屋としてあるべき姿を求め変化してきたアリアにとって、Factory Homeの誕生は必然でした。
ARIA製 ワークルームのための造作家具
「家具で暮らしの空気感まで変えていきたいと思っています」。アリアはイタリア語で空気、アソシエイツは仲間を意味します。アリアソシエイツのスタッフは寿和さんの思いを共有する仲間なのだと、社名が表していました。クオリティとホスピタリティを備えた仕事は評判を呼び、京阪神を中心に住宅から店舗までさまざまな空間作りを行っています。
設計から施工まで行うチームアリア
家具屋として奔走する寿和さんには、もう一つの顔があります。「一般社団法人PLACE」代表理事。空き家だった倉庫を改装してイベントが開けるスペースを作ったり、屋外シネマやビアフェスタを企画したり、市民大学講座を開いたり…地域に人と人、情報の出会いを生む会社です。「小さいときは、地域のことが嫌いでね。祭も、田舎であることも嫌でしょうがなかった」。小学校の同級生は出て行ったきり、ほとんど帰ってこない。仕事がないし、遊ぶところもない。
「地域を照らすためには、まずは自社が輝くことだと思っています。だけど、一企業が地域にできることを超えて、ここで何かをしないといけないのではないのかと思ったんです」。そして2016年、仲間とともにPLACEを立ち上げました。「さまざまな情報に触れる機会を生み、交流人口を増やせば、地域に誇りを持つ人たちも増えてくる。何より、丹後にはこんな可能性があるんだと言う姿を子どもたちに見せてあげたい」。
PLACEが企画・実施した畑のレストランやアーティストを招いたワークショップの風景
「しつらえを良くすることも、地域づくりも、毎日の暮らしの中で少しずつ実現できることがあるんじゃないかな。それはコップ一つをお気に入りのものにするくらい、ささやかなこと」。その幸せは人に伝わるから、と話す寿和さんはいつも笑顔が絶えません。かつて思い悩んだ表現の道を、家具屋として歩み続けています。
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD