きらびやかな紋様が踊る錦
しっとりした光沢が誘惑する白生地
次々とあらわれる表情豊かな反物たち
多種多様な織物の饗宴へ　さあ参りましょう

こんにちは、PARANOMADテキスタイルデザイナーの原田美帆です。ここは丹後織物工業組合中央加工場旧和装棟。かつて産地を支えた場所が「TANGO TEXTILE EXHIBITION」特設会場として開かれました。41社300点の織物製品が並ぶさまは、まさしく圧巻です。

丹後の織物組合では、1年に1度「丹後織物求評会」という催事を行なっています。今年で21年目となる取り組みで、例年は京都市内の一角にて開催されてきました。西陣や室町の織物関係者を招き、技術や意匠の審査を行い、優秀作品が選定される…という、業界関係者向けのちょっとお堅い展示だったのです。コロナ禍の影響もあり20年ぶりの丹後開催となった本展。タイトルも少しおしゃれになって、うんと高い天井に窓からの光、足元には地元産材のチップが敷き詰められて、なんとも気持ちのいい空間で多くの来場者を迎えました。

別の棟には、歴代の丹後ちりめんポスターに掲載された着物が並んでいます。当時の最先端を表現したデザインは、今見てもアバンギャルドでかっこいい！ものばかり。行き交う人たちはお喋りも賑やかに、心を躍らせているのが伝わってきます。織り手や地域の人が織物を見て喜ぶ姿が、そこかしこにありました。これは、実は画期的なことなのです。仕事として従事していても、製品となった姿、まして美しく展示された姿を見ることは殆どないという状態が従来の当たり前でした。

秋も深まった11月、今度は他の地域イベントで機屋が集まりました。ユニークな製品や技術で活躍し、テレビやメディアへも登場する機屋たちが何を話すのか。集まった人たちも興味津々です。

「地域で暮らしながら、地域で働くことの価値が高まってきた」とは、自らもサーフィンを楽しむ機屋の言葉。高級メゾンにも生地を納める機屋からは、「丹後っていい地域だなと思ってもらえるように、日常に上質な生地を提案したい」とこれからの方向性が語られました。「織物は単なる身につけるものではなく、コミュニケーションが生まれるツールになる」「地域で気軽にシルクを使ってもらえるようなシステムが作りたい」。次々と地域への思いが言葉になっていきます。これまで外に向かって様々な挑戦をしてきた機屋だからこそ、内へ向けてひらく意味と可能性に気がついたのでしょう。

デザイナーの評価も、国内外の販路も大切。だけど、もっと見てほしい人、この地域のテキスタイルの魅力を知ってほしい人がいる。それは、地域の人たち。丹後の人にこそ、もっと魅力に触れてほしい。

2018年に創設された「TANGO OPEN」という地域のブランドには、世界に向かって開き、新しい道を拓くという意思が込められています。そこに「地域に向かってひらく」という想いが添えられました。かつて住民のほとんどが織物や関連業に就いていた丹後。今では事業者数も減りましたが、それでも半島全体で700軒の機屋が織物を生み出しています。丹後は世界の人が欲しがるステキなモノにあふれてる。それを生み出すのは、おなじ地域に住み、おなじスーパーで買い物をしている人たち。画面の向こうじゃない、すぐ隣にいる人がこんなにステキなモノを作っている。酒蔵だってたくさんあるし、オーガニック野菜も先駆者がいて、東京からお客さんがやって来る料理屋もある。ほら、すごく羨ましくなってきたでしょう。織物だけじゃない、丹後は世界の人が欲しがるステキなモノにあふれてるんです。

原田　美帆　与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD