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丹後の美と自然をまとう – 藤布「遊絲舎」part2 Wrapping the beauty and nature of Tango -Fuji cloth "yushisha" part2

水を吸わせた藤の中皮「アラソ」

 

「とっても地味な作業だから、今まで誰も取材してないですよ」。

春先から初夏にかけて瑞々しい藤を切り、乾燥させておく。木灰で炊いて、川で不純物を洗い流すのは寒くなる前に。取り出した繊維を糸に績むのは冬仕事。藤織りは一年をかけて暮らしのリズムに合わせて営まれてきました。

こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。いよいよ藤布の手仕事へと取材は進みます。古代から伝承されてきた手仕事を現代に伝える小石原将夫さん、充保さん親子を訪ねた「丹後の美と自然をまとう- 藤布「遊絲舎」序章」と合わせてお読みください。

 

遊絲舎の倉庫にはすっかり乾いた藤の蔓がストックされています。取材は「灰フルイ」と呼ばれる工程から始まりました。木灰に廃材を被せて燃やす「炊き返し」を行った後に、フルイにかけてゴミを取り除き細かく均一にする仕事です。完全燃焼させることで木灰のアルカリ度が上がり、次の工程「灰汁炊き」で不純物を溶かす効果が高まります。灰汁炊きの数日前に合わせて準備。茶人が灰を育てるように、藤を炊く灰から手をかけて。


少し茶色がかったベージュの木灰

遊絲舎で使っている木灰は京丹後市久美浜町にある「ミルク工房そら」のピザ窯から届きます。将夫さんと丹後ジャージー牧場の平林衛さんの親交から、ナラの良質な木灰が手に入るようになりました。

 

藤の束は「アラソ」と呼ばれる中皮だけを乾燥させたもの。5本ごとに束ねてある状態から一旦解いて、ゆるく束ね直します。量を均一に整え、灰が奥まで入るように緩める「仕分け」です。5本の束を5つまとめたものを「ヒトシバ」と言い、一度に鉄の窯で「ハチシバ」炊きます。水につけて柔らかくしながら。将夫さんの奥さま、朱美さんの手が入りあっという間に終了。水気に触れた藤から少し甘い香りが立ち上がっていました。水につけて灰汁炊きに備えます。

「全部の工程の中で、一番大事なのは灰汁炊き。父と直接話したことはないけど、そう思っていると思います」。

タライで木灰を水で溶かし、ヒトシバずつ藤に擦り付ける「灰まぶし」。繊維の奥まで木灰が入り込むように、束ねたところは特に念入りに。朱美さんはアルカリ度の高い灰でも素手で作業を進めます。「僕はピリピリして手袋なしではできない」という充保さんの言葉もなんのその「私は素手の方がやりやすいの」。試しに手に取ってみましたが、何も感じない…どうやらアルカリに強いタイプのようです。

 

鉄の鍋には藤の蔓の芯が曲がった特製の道具をセット。アラソを炊く時に焦げ付かないように左右にゆすったり、上下をひっくり返す時に使います。湯につけると柔らかくなり、右・左・手前・奥と、ハンドルを操作するような感覚で自由に動く秀逸な道具ですが、上世屋の頃から呼び名はないよう。

 

この上にヒトシバずつドーナツ状にして積み上げ、ハチシバ重ねます。ヒトシバに一升の木灰という分量を守り、最後には用意した灰を残さず上からまぶしてビニール袋を落し蓋に、木材を重石に。いよいよ灰汁炊きの開始です。ピリピリ雨の降るなかで角材をくべて。パラパラやポツポツではく、ピリピリ。丹後弁で、細かな雨の状態をさします。

 

約1時間後、大鍋全体が沸騰し始めました。ここから4時間近く、火を絶やさずアラソを焦げ付かせないように、煮詰まれば水を足して。やがて湯気から香ってきたのは、おくどさんでコンニャクを手作りする農家を訪ねた時の匂い。調べてみると、コンニャクの凝固も木灰のアルカリ作用によるもの。皆さん、コンニャクの匂いを嗅いだ時は、灰汁炊きを想像してみてください。

 

蔓のハンドルを動かしてみると、底に溜まった灰が絡みついてずっしりと重たい。グツグツと沸騰を続ける鍋。雨が強くなる。角材が炭になり、火力が上がる。火の番をしながら、充保さんの言葉には「丹後」が何度も登場します。「丹後の機屋は仲がいい、丹後の人は優しい、丹後の四季は本当にきれいで、食べ物は美味しくて…」全国への出張で、年間の半分以上も丹後を離れる充保さん。郷里への思いがあふれていました。

 

2時間が経ってハンドルに乗せたアラソのドーナツを少しずつ回転させて、上下ひっくり返します。くったり炊かれたアラソを一本、柄杓の水につけて冷まして、親指で表面をこそげると白い繊維が現れました。「いい具合に炊けている」。

 

ここからさらに1.5時間。ハンドルはとても軽くなってアラソが浮いているような感覚に変化。やがてグレーベージュの灰色は徐々に深みを増して行きます。藤の皮が煮出されたのでしょうか。上澄みのところは、漆の朱を思わせるような色合いに。火をつけ始めてからおよそ5時間。再びアラソの上下を返して、1本をこそぐ。朱美さんのお墨付きが出て、ようやく灰汁炊きが終了しました。

藤から織物ができる瞬間を追って、Part3に続きます。

原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD

INFORMATION

名称
遊絲舎
Name
yushisha
住所
京都府京丹後市網野町下岡610
Address
kyoto,kyoutangosi,amino-simooka610
URL
http://www.fujifu.jp/index.html
Url
http://www.fujifu.jp/index.html
名称 Name
遊絲舎 yushisha
住所 Address
京都府京丹後市網野町下岡610 kyoto,kyoutangosi,amino-simooka610
URL Url
http://www.fujifu.jp/index.html http://www.fujifu.jp/index.html