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漁港に佇むコーヒースタンド 三津の灯台珈琲 Mitsu no Todai Coffee, a coffee stand standing in a fishing port

赤い灯台に見守られて
いろんな人が
あつまり、ただよい、まじわる
ここは小さな村の小さなコーヒースタンド

かつて定置網漁が栄えた漁港に、今は小さなコーヒースタンドがあります。京丹後市網野町三津で生まれ育った澤佳奈枝さんが、2021年4月に『三津の灯台珈琲』をオープンしました。

「あのポスターがきっかけですね」。店内に飾られたポスターには、赤い灯台に向かう人たちの後ろ姿が写っています。京都府の主催するアートプロジェクトの広報としてさまざまな場所に掲示され「この写真に映っている灯台はどこ?」と問い合わせがあり、実際に灯台を訪ねる人も現れました。地元の人たちにも忘れかけられていた灯台に人が集まるのを見て、「コーヒーを出したら売れるのでは」と友人と冗談半分に話していたそうです。佳奈枝さんが運営するマリンレジャーの拠点は、窓から灯台が見えるロケーションに位置しているのです。

三津の灯台珈琲店内にて 漂流物や貝のハーバリウムも販売している

進学と共に大阪へ出た佳奈枝さんは、就職のタイミングでUターン。地域のスイミングスクールのインストラクターとして働き始めます。10年勤めた後に自身が代表となり経営も担っていましたが、体調を崩したことをきっかけに閉校します。体が回復し、リハビリにと歩いて行ったのは海を見渡す丘の上。大好きな海を通じて村(佳奈枝さんは三津地区のことを“村”と呼んでいます)が元気になることがしたいと、2020年5月マリンレジャーを展開する翔笑璃(とびわたり)を創業します。屋号は三津漁港から少し離れた岩場『とびわたり』から取りました。よく泳いで行っていたそうです。

時をさかのぼり2018年、ひとりの青年が三津地区を訪れていました。アーティスト・イン・レジデンス事業の参加者としてリサーチをしていた、東京在住のアーティスト高橋臨太郎さんです。当時から三津に惹かれていた臨太郎さんは、三津の神社や町中で作品のイメージスケッチを残しています。2019年は京丹後市内の他の場所で作品展示を行いましたが、やはり三津には足を運んでいました。そして2020年、訪問3年目にして三津をテーマにした作品を制作、三津八幡神社芝居舞台で展示します。

《Lagoon dust》の展示場所となった芝居舞台

制作リサーチのためコーディネーターが佳奈枝さんを紹介し、ふたりは2時間も村を歩いて周りました。「アートを見たり美術館に行ったことがなかったし、今でもアートはよく分からない」という佳奈枝さん。「頼むから三津に変なものを作らないでくれ」と心配したそうです。三津八幡神社芝居舞台に完成した作品『Lagoon dust』は、町そのものを楽器に見立てた水琴窟を、かつて旅芸人や興業師たちが使っていた舞台に設置し、音を聞くというものでした。滞在中に村の人たちとの関係性が築かれ、アートに興味はないけれど彼の作品は見てみよう。いい作品だね。彼の参加しているプロジェクトなら、他の地域にも見に行ってみよう…と、住民たちにも共鳴反応が起こります。“三津をめがけて人が来るようになる”。アートがもたらす変化を体感し、みんなの前で、佳奈枝さんは「コーヒースタンドを作ろうと思います」と宣言していました。

作品と共に、 高橋臨太郎さんと澤佳奈枝さん (写真提供:澤佳奈枝さん)

赤い灯台が印象的なロゴマークは臨太郎さん作です。佳奈枝さんから連絡があった時、臨太郎さんは「やっと恩返しができる」と思ったそうです。土地にあるものから作品を作るので、泥棒をしているような申し訳ない気持ちがあったと、後に語っています。東京のアトリエで描かれたロゴが三津でタンブラーやパーカーになり、東京から来たお客さんと共に東京に帰っていく。まるでひとつのアートプロジェクトのようなサイクルも生まれました。

三津の灯台と海が作り出すウェーブは、さらに近隣の住民を巻き込んでいきます。2021年10月には三津の灯台アートプロジェクト実行委員会を発足し「三津の灯台50周年点灯式」を開催。かつて漁師と住民を照らしてくれた灯台を地域のシンボルにしようと、漂流ゴミを使ったワークショップや臨太郎さんによるパフォーマンスを実施。続いて2022年9月には「三津のちいさな芸術祭 織りかえす波の音」を開催し、ビーチクリーンやワークショップに地域の人がたくさん集まりました。アーティスト・イン・レジデンスプログラムに参加したアーティストたちも再集合し、地域への思いを語り合いました。

レジデンスに参加したアーティストと地域サポーター 三津漁港にて
臨太郎さんの考案したワークショップ 紋紙に穴を開けオルゴールで演奏する
三津のちいさな芸術祭 織りかえす波の音 会場風景

いろんな人生が三津の海に流れ着き、ひとつの波になり、解けて、また共鳴して…いつも赤い灯台が見守ってきた風景です。三津の灯台珈琲で生まれる物語も、ずっと見守ってくれるでしょう。

2020年のレジデンスプログラムを綴った『風景泥棒がやってくる町 大京都芸術祭2020』も併せてお読みください。

原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD

INFORMATION

名称
三津の灯台珈琲
Name
mituno todai coffe
URL
https://www.instagram.com/mitsu.no.todaicoffee/
Url
https://www.instagram.com/mitsu.no.todaicoffee/
名称 Name
三津の灯台珈琲 mituno todai coffe
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https://www.instagram.com/mitsu.no.todaicoffee/ https://www.instagram.com/mitsu.no.todaicoffee/
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