気がついたら隣にいて元気をもらっていた
SORAが届けてくれるものに
気がつけば見上げて元気をもらっていた
いつもそこにあるSORAに
こんにちは、PARANOMADデザイナーの原田美帆です。丹後に暮らして幸せなことの一つは、美味しい有機野菜が食べられること。その生産者さんが、丹後の暮らしの仲間であることです。
小さな球状のつぶつぶが根粒菌
「これは根粒菌といって、落花生と一緒に暮らす菌が土を肥やしてくれたサイン。だから来年は肥料をあまりやらなくてもいい。土壌の中に窒素が固定されて、それを元に作物は育つから」。SORA農園 大場亮太さんが畑を見回っています。落葉、稲わら、刈草、籾殻などを原料にした堆肥を土に混ぜ、土そのものの環境を整える。土の状態を確かめる研究者のように、土の育ちを見守る父親のように、土が大好きでしようがない少年のように。
やがて土の一部になる枯葉
京丹後市弥栄町に広がる1.4ヘクタールの畑に育つ有機野菜は、白菜、大根、人参、チーマディラーパ、フレアリエッリ…お馴染みのものから舌を噛みそうな珍しいものまで年間を通して約30品目、100種類以上になると言います。関東に生まれ育ち、東日本大震災をきっかけに農業の道を歩み始めた亮太さん。就農当初は都市部への出荷をベースにしていました。「丹後で育てた有機野菜を、特別なものではなくて日用品として食べてもらいたい」。しかし販売店舗が設定する価格は、思い描いていたものとは違いました。希望価格は伝えられても、決定権はなかったのです。
フリアリエッリ
違和感と同時に、地域が抱える課題も見えてきました。農家は都市部へ出荷し、近隣のレストランは丹後以外のマーケットから仕入れている。素晴らしい有機農家がたくさんいるのに浸透していないし、農法への理解も少ない。それならばまず地元から広めたいと、出荷先を地域のスーパーやレストラン、直売所「キコリ谷TERRACE」に定めます。ケールやビーツといった馴染みのない野菜は、販売が伸び悩むこともありましたが、しばらくすると「レストランで提供されたSORA農園の野菜を食べたら美味しくて、地元のスーパーマーケットで買って家でも料理してみた」という人たちが現れます。次のシーズンにはリピーターも生まれて、丹後に小さなビーツブームが起こりました。するとレストランも新しいメニューに加えて、それを知った都市部の人たちが訪れるようになって…そんなサイクルが動き出しています。
収穫祭で賑わうキコリ谷TERRACE
「キコリ谷TERRACE」はその一端を感じられる場所。SORA農園の野菜だけではなく、丹後半島を中心とした有機農家や生産者のグループ「タンゴ・オーガニックファーマーズマーケット」の食品や書籍を扱う直売所です。亮太さんのパートナー稲鍵佐代子さんが中心となって、野菜を使ったキッシュやサンドイッチ、ミルク工房そらのバターミルクを使ったスコーンなど「丹後のいいものを伝える」カフェメニューを提供されています。「有機野菜は美味しい。良いものを知ったら、それを伝えたくなるんです」。佐代子さんが届けたいと思うものは、これまでの海外生活で味わった焼き菓子の美味しさであったり、オーガニックの母と呼ばれるアリス・ウォーターズの本であったり、そのかたちはさまざま。これまでにも、音楽やアニメーション、インテリアデザインなどカテゴリーを横断して「好きなものを届ける」仕事をされてきました。「丹後の素晴らしい農業を伝えることは、アーティストやデザイナーの作品を届けることと同じなんです」。そこに共通するのは特別なものではなくて、いつも隣にいて、元気にしてくれる存在であること。
冒頭の写真の土の中には、美しい人参がありました
「キコリの谷に、暮らしを豊かにしてくれるものが集まる。そんな場所に育てていきたい」。土が野菜を育むように、美味しいものや音楽、人との出会いが暮らしを彩る。亮太さんと佐代子さんは、土を耕すようにキコリの谷を耕しています。
土から育てる大場亮太さん
原田 美帆
与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。
PARANOMAD