布に織り込まれた風土や歴史は
衣服となって未だ見ぬ世界へ旅立つ
個を超え 地域を超え
然るべき未来へ
方舟となって
ARLNATA誕生から4年。寺西俊輔さんと千慈さんは「伝統を現代に纏う」をコンセプトにコレクションを手がけ、お客様へ共感の輪を広げてきました。2021年にはショールームもオープン。本場大島紬、牛首紬、螺鈿織、リボン織、近江縮と各地の織元たちと信頼も築き上げています。
百貨店のPOP UPでは、完成した衣服だけではなく反物そのものも展示します。「反物に惹かれて入って来られる方も、洋服が目に止まって入ってこられる方もいて。それぞれ年齢層も趣味も全然違うんですよ」。着物が好きな女性も、ハイファッションが好きな青年も、俊輔さんの産地に対する熱い思いに引き込まれていくのでしょう。ARLNATAの衣服を着ることを「日本の伝統をどうにかしようという気持ち、ARLNATAが目指す場所自体を自分も纏っている」と深く理解するお客様も現れています。
ARLNATAにはプレタポルテもありますが、反物選びから始まるオーダーメイドに特徴があります。「初めに反物がある、ということが大切です。そこから着物を仕立てても良いし、洋服にしても良いのです」。さらに、洋服への仕立てにはニット生地を組み合わせ、小幅の和装生地から何点ものアイテムが縫製できるように工夫されている。「たとえば一反の反物からワンピース、ケープ、ニットタイを作ることができます。昔は良い着物を三世代に引き継ぐと言われてきましたが、この方法なら三世代で一緒にシェアして着られる。ご夫婦でジャケットとケープに仕立ててコーディネートするのも素敵です」。
千慈さんが、新しく訪ねた織元にオーダーシステムを説明します。「反物は購入した時点でお客さまのものになるので、一度に全ての用尺を使わずに、欲しいアイテムができてから仕立が出来ます」。話を聞く職人たちの表情が明るく、輝いてゆきます。「うちの生地で洋服を作りたいという思いや、デザイナーからのお誘いはありました。けれど呉服と比べて安価なものになってしまう。同じ手間暇をかけた織物なのにと違和感があったのですが、このプロジェクトなら価値観を守っていただける」。プロジェクトの輪は、着実に広がりを見せています。
2022年、これから全国の産地へその輪を広げようというタイミングに、ARLNATAは東京へ移転を決めました。「MIZENというプロジェクトが立ち上がり、すぐに展開が決まりました。日本のさまざまな伝統技術を活用したラグジュアリーブランドを作ろうと声をかけていただいたのです」。それは、かねてよりARLNATAの理念に共感している、一人の顧客からの提案でした。織物にとどまらない、職人の集合体がブランドとなるプロジェクト。そのディレクターとして抜擢されたのです。「俊輔さんと千慈さんの感性と思考は伝統を牽引する存在になり得る」。熱いラブコールに、二人は挑戦を決めました。プレッシャーも大きいですけれど、と俊輔さんは冗談めかして笑いを誘います。根からの関西人でユーモアたっぷりと話す姿が、職人たちとの距離をいっそう縮めているのでしょう。
ARLNATAのタグには、織元の工房名が記されています。「職人がブランドになる。だからARLNATAの文字の方が小さくて良いのです」。通常のアパレルブランドと違い、コレクションはシーズン単位では入れ替わりません。たとえばシャツのシルエットを数年毎に修正したり、カフスなどのディティールを変更したり。一つのアイテムがゆっくり変化するスタイルを目指しています。それは、各産地が長い年月をかけて作り上げた織物の発展にも重なって見えるようです。日本の伝統産業が世界のラグジュアリーブランドになる瞬間を信じて、ARLNATAの輪は広がり続けます。
*トップ写真 ARLNATA提供(撮影:菱川 陽亮(RIDE))
「蒼き矢が射る 伝統を想う心の輪 ARLNATA part1」
「蒼き矢が射る 伝統を想う心の輪 ARLNATA part2」
も併せてお読みください。
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD