祖父が植え
父が育てた
丹後のオリーブ
僕はひらく
オリーブの可能性を
冬は灰色の雲とたくさんの雪に覆われる丹後半島で、オリーブが栽培されていることをご存知でしょうか。「祖父がオリーブを始めた18年前は、丹後がオリーブ栽培最北の地でした」。大善株式会社 田中栄輝さんにオリーブ畑を案内してもらいました。オリーブが鈴なりに実り、収穫も佳境を迎えています。
地中海や瀬戸内海など温かく雨の少ない気候が適するオリーブ、丹後での栽培は困難が立ちはだかりました。雪に埋まってしまったり、病気にかかったり…樹々が大きく育つか、実をつけるか分からない。「それでも祖父が挑戦したのは、戦後の食糧難を生き、食料自給率の低さを憂いたからと大人になって知りました」。オリーブは比較的栽培と搾油がしやすく、栄養価も高い果実なのです。
栽培を開始して約10年は、オイルにする収穫量が足らず実の塩漬けを販売していました。その後、宮津市でも始まったオリーブ栽培の協力農家として管理と出荷を委託。5年の契約が終わり、とうとう自社ブランドのオリーブオイル『太陽と雪のオリーブ KANDAN(カンダン)』をスタートさせます。寒暖の差が大きい丹後でたくましく育ったオリーブたちと、祖父の夢を実現させるために。
栄輝さんが家業に入ったのは2018年、きっかけは父親のうつ病でした。バブル崩壊後に織物業の5代目社長となった父は、先行きの見えない時代に心労を重ねていたのです。自動車販売の営業をしていた栄輝さんは、まず柱である製織事業に加わり職人として父親を支えました。「工場から離れてオリーブ畑に行く時間ができた父は、土とオリーブに触れて元気を取り戻していきました」。オリーブ畑には人を癒す力がある。栄輝さんはオイルに止まらないオリーブの可能性に気がつきました。
コロナ禍を経て栄輝さんもオリーブ畑の農作業に加わると、たくさんの友人が草刈りや収穫に集まりました。「終わった後は、みんないい笑顔をしているんですよ。農作業は達成感が目にみえて、みんなでやればチームワークを感じられる。土や農作物に触れると、都会に住んでいる人やデスクワークをする人に新鮮な体験になるんだと思いました」。日常生活から離れて、リフレッシュできる場所へ。オリーブ畑からオリーブガーデンへ。栄輝さんの思いは、少しずつ熱とかたちを帯びていきます。2022年、京丹後市で開かれたビジネスピッチに出場し、オリーブオイルだけではない“集まれる場所”のプレゼンをします。オーナー制度やイベント企画の構想を発表し、手応えも得ました。
そして2023年10月、クラウドファンディングを立ち上げました。『神秘的なオリーブに囲まれ非日常を感じられる“最高”の「癒し空間」を作りたい!』。父の病気を直し友人たちを笑顔にしてくれたオリーブガーデンを、より多くの人が集まれる場所に育てたい。そのため展望台やランドマークになるコンテナハウスの設置を計画しています。
オリーブガーデンは、バイパス道路から車で5分ほど走った山の中にあります。喧騒から離れた山の上、空は広く電気も水道もありません。「何もないからできる体験が、ここにはあると考えています。例えばキャンパー向けに解放したり、子供たちが安心して走り回れる場所になったり」。祖父と父と歩んだ事業は、請負仕事から自社ブランドの発信、そして“もの”から“場所”へと広がっていきます。「今後、モノの販売だけではオリーブガーデンの存続は難しいと思った時、“場所”が活かせると気がついたんです」。コンテナハウスの屋上から、みんな笑顔でオリーブを眺めている景色が見たい。栄輝さんの新しい挑戦を、ぜひ応援してください。
*クラウドファンディング オリーブガーデン×セルフケアで最高の癒し空間を作りたい!!
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD