糸を撚ると ちりめんが生まれ
人に寄ると 輪が生まれ
地域に依ると まだ見ぬかたちが生まれてくる
真白な丹後ちりめんにフレッシュな色がにじむ。まあるい形は繭のようで、支えるスツールの樹々はとっても伸びやか。体を預けると、自然の中に座っているような気持ちになって…
「scenery スツール」は、丹後ちりめんの老舗 丸仙と、豊富な銘木を扱うKUKUの技術を掛け合わせて生まれた椅子です。デザイン開発を行ったのはyoru design、2019年から丹後をベースに活動するデザインユニットです。代表の豊山貴之さんとデザイナーの河野詩織さんはそれぞれ富山県と兵庫県に在住しながら、幾度も丹後を訪れてプロダクト開発を続けています。
デザインしたkakejiku toteを手に 豊山貴之さん(左)と河野詩織さん
二人が初めて丹後を訪れたのは2018年。当時通っていた服飾専門学校にきた産学協同開発のオファーがきっかけでした。丹後ちりめん創業300年のタイミングでもあり、担当教員が丹後産地に通い続けていた縁もありました。「機屋さんを6社くらい回ったでしょうか。2年目の取り組みで、今もお世話になっている丸仙さんと出会いました」。貴之さんと詩織さんは丹後ちりめんの特性を活かした風呂敷やマタニティウェアを企画。あっという間に2年という在学期間は過ぎて行きました。そして、卒業の年にyoru designを立ち上げます。「学生のうちだけでは、ちりめんのことを十分に知れていない。もっと知りたいという気持ちが関わる程に強くなっていきました」。
貴之さんは関東の美大を卒業後、プロダクトデザイン事務所でのインターンシップを経験。そこで「いまだ手に職がつけられていない」と体感し、縫製技術の習得を目指して服飾専門学校の社会人コースに進みます。その先で出会った丹後の職人たちの技術に魅せられて、気がつけば何度も通うようになりました。その度に訪れる先はどんどん増えていきます。無地ちりめん、ポリエステルちりめん、先染め織物、草木染め作家…丹後の作り手たちを知るほど「ここにはものを生み出せるポテンシャルがある。産地の歴史というベースがあるから、これからの発展が考えられる場所だ」と想いが高まっていきました。自らに技術をと願った青年は、その技術と協業する道を見つけたのです。木工製作も可能なKUKUとも出会い、いよいよ思想がかたちを得てゆきます。
デザイナー詩織さんは大学卒業後に家業へと入りましたが、やはり好きなファッションを学びたいと社会人コースへ入学。スツールに使われているちりめんの染めは詩織さんによるものです。学校では染色の授業がなく独学で染めを学んでいたと言います。現在は織物を一貫生産する企業に務め、生地の企画を手掛けるようになりました。それでも、丹後への想いは絶えることなく通い続けています。
「やっぱり好きなのだと思う。ものづくりや丹後のことが。根底に強さが見えるから」。丸仙株式会社の安田博美さんは、yoru designへの印象をそう話してくれました。ちりめんの技術を提供し、若い感性のデザインを自社製品のパッケージにも取り入れています。4年の間に築き上げた信頼関係は、技術とデザインを「よりあわせる」姿を見せてくれました。2021年には丹後の様々なブランドが集まるNEW WeAVE NEW TANGOプロジェクトに加わり、その輪は一層の広がりを見せています。
貴之さんがパッケージをデザインした丸仙株式会社のちりめんマスク
「お客さまに“寄りそう”、メイカーと一緒に“より合う”、そして丹後ちりめんを織り成す強撚糸の“撚る”」から着想されたyoru design。緻密な撚りが輝くちりめんを生むように、地域に眠る可能性を撚りあわせて。まだ見ぬかたちが生まれる瞬間を、みんなが待っています。
yoru designのロゴは丹後ちりめんを象徴する八丁撚糸機のイメージ
原田 美帆 与謝野町在住
インテリアコーディネーター・現代アートスタジオスタッフとして活躍し、2015年からは丹後・与謝野町に移住と共にデザインスタジオ「PARANOMAD(パラノマド)」を設立。織物は彫刻という独自の視点でカーテンを始めとしたテキスタイルを制作。また、マニアックな所まで的確にレポートするライターとしても活躍中。そんな彼女の美と食の記事は今後とても楽しみであります。PARANOMAD